研究概要 |
海産魚養殖では, 飼育環境下における様々なストレスが魚病発生の要因となる。水産上重要魚種であるマサバ(Scomber japonicus)は, 高水温期に発生するレンサ球菌症に代表される疾病の発症が, その飼育や養殖を困難にしている。我々の研究チームは, マサバおよびその近縁種であるゴマサバ(Scomber australasicus)の種苗生産や飼育実験を行う過程で, ゴマサバが高水温期においても細菌感染症を発症せず, その斃死率がマサバと比較して著しく低いことを見出した。そこで, 共にサバ科サバ属に属し, 雑種の作出が可能なほど近縁であるマサバとゴマサバの種間に存在する抗病性の差を規定する分子基盤について研究を進めている。これまでに, 高水温環境下で細菌感染症の発症率が低いゴマサバと, 死亡率が高いマサバの網羅的な遺伝子発現パターンの比較解析を実施した。その結果, 感染症による斃死率が高い, 高水温環境下で飼育したマサバでは, IL-8等の炎症性サイトカインや抗微生物ペプチドなど免疫応答に関連する遺伝子の発現量が著しく高く, さらに, 急性の炎症反応に関わる遺伝子発現が高い状態で維持されていた。これらの結果から, マサバでは過剰な免疫反応が疾病の発症や個体の斃死を促進する可能性があることが推察された。
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