研究課題/領域番号 |
24780185
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 志保 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教 (60432340)
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キーワード | 気候変動 / 陸域環境 / 二枚貝養殖 / 物理・生態系モデル / 養殖適地選定モデル |
研究概要 |
本研究では,これから進行していく気候変動と陸域環境の変化に対応した沿岸漁業を提案するために,パイロットスタディーに適したスケールを持つ七尾湾において実用的な二枚貝養殖適地選定モデルを作成する. 平成25年度には,観測結果に基づいて湾内の物理・生物化学環境を再現するモデルを作成し,七尾湾の物理環境には対馬暖流の流路変動が強く影響しており,栄養塩環境には外海からの栄養塩供給が大きく寄与していることを明らかにした.陸域からの栄養塩負荷の寄与は小さく,外海からの栄養塩流入が基礎生産を支えていると考えられた.シミュレーション結果から,温暖化や日射量の増加が進むと,基礎生産量が長期的に増加することが示唆された. 七尾湾では近年植物プランクトンが増加しているといわれており,平成25年春季には湾全体に最大10μg/L程度のクロロフィル極大が観測された.一方,水深が浅く閉鎖性の強い湾奥では,夏季における植物プランクトンや底性微細藻類による有機物生産量の増加が,秋季における底層貧酸素の悪化につながっていることが示唆された.気象条件の変化に伴う植物プランクトン量の増加は,二枚貝の垂下養殖には有利な条件になる一方,底性二枚貝の養殖には不利な条件をもたらす可能性がある. 平成25年度までの研究により,温暖化は底性二枚貝の生息環境として重要な浅海部海底付近の水温だけでなく,溶存酸素量の変動にも関わっていることが示された.今後,陸域環境の変化の影響をさらに詳しく解析するとともに,水槽実験により,予測される物理化学環境および飼料環境(植物プランクトン量)の変化が養殖対象貝類に及ぼす影響を調べ,気候変動と陸域環境の変化をふまえた二枚貝養殖適地を提案する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画では,平成25年度に物理モデルの作成と温暖化影響の解析, および生態系モデルの作成と陸域影響の解析を目標としている.しかしながら陸域影響を定量化するために重要な河川水位・流量について,公表されている既存のデータが使用に耐えるものではないことが明らかになり,新たに最低限のデータを取得するとともに陸域水循環モデルの作成も必要になったため.また,物理環境(水温)および化学環境(溶存酸素量)の変化が養殖対象貝類に及ぼす影響をパラメータ化するための水槽実験を行なっているが,実験結果がモデルのパラメータとして十分ではなく,再実験が必要になったため.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に引き続き,モデルに必要な観測・実験データを収集し,七尾湾への温暖化影響・陸域影響の解析を行なう. 七尾湾に流入する河川流量データの不足を補うため,河川水位・流量の観測を行ない,陸域水循環モデルを作成する.その結果と,河川の生物化学環境のデータとを合わせて,陸域影響の再現およびシミュレーションを行なう. また,物理環境(水温)および化学環境(溶存酸素量)の変化が養殖対象貝類に及ぼす影響をパラメータ化するための水槽実験については,貝類の馴致期間を長く取り,季節を選んで行なうことにより,水温および溶存酸素量の変化への応答を明確にする. それらの結果に基づき,作成したモデルを用いて温暖化と陸域環境の変化をふまえた湾内における二枚貝の生育シミュレーションを行ない,二枚貝の養殖適地を提案する.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では,これから進行していく気候変動と陸域環境の変化に対応した沿岸漁業を提案するために,七尾湾において実用的な二枚貝養殖適地選定モデルを作成しており,モデルパラメータを得るために二枚貝を用いた水槽実験を行なっている.しかしながら平成25年度の水槽実験では二枚貝の環境への応答が想定外であったため,一度実験を中断し,次年度の貝類種苗を用いて再度実験を行なうことが必要になった.このため次年度使用額が生じた 次年度使用額は,石川県水産試験場における水槽実験にかかる費用および京都-石川間の旅費に使用する.また,学会発表旅費および論文の印刷費に使用する.
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