研究課題/領域番号 |
24780188
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
中村 洋平 高知大学, 教育研究部総合科学系, 講師 (60530483)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 国際研究者交流 / フランス |
研究概要 |
赤土が仔魚の着底場選択に及ぼす影響を明らかにするために、濾過海水(Control water, CW)、赤土50mg/l;海水(Sediment-enriched water)(以下、SEW50)、赤土200mg/l;海水(以下、SEW200)の中での仔魚の同種や生サンゴに対する選好性の違いを2種類の室内実験で調べた。本実験では、ライトトラップでの採集個体数が多かったデバスズメダイを供試魚とした。まず、視覚実験として透明アクリル板で3区画に区分した実験水槽内をCWで満たし、両端の2区画に対象物(実験①同種と異種、実験②生サンゴと死サンゴ)を配置し、中央区画に放された仔魚がどちらの対象物に対して選好性を示すか調べた。同様の実験をSEW50とSEW200、最後にもう一度CWに対しても行い各海水中での対象物に対する選好性の違いの有無を調べた。次に嗅覚実験として2択式実験水槽に対象物を2~3時間浸したCWを流し込み、実験水槽中央に放した仔魚がどちらの海水に対して選好性を示すか調べた。同様の実験をSEW50とSEW200、最後にもう一度CWに対しても行い各海水に対する選択性の違いの有無を調べた。視覚実験ではCWとSEWの間で対象物に対する選好性には有意な差は認められなかった。一方、嗅覚実験ではCWにおいては仔魚は同種や生サンゴに対して強い選好性を示したが、海水中に赤土が含まれると対象物に対する選好性がなくなった。したがって、赤土は仔魚の嗅覚による着底場選択に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
さまざまな海洋汚染物質の中でも、沖縄県や低緯度諸国で最も一般的な汚染物質といわれる赤土が魚類の嗅覚による着底場選択に負の影響を与えている可能性が高いことを初年度の実験で明らかにすることが出来た。特に、当初研究計画には含めていなかった視覚による着底場選択実験を行い、その結果を嗅覚実験のものと比較することで後者による着底場選択の重要性を明示できたところは大きな成果として挙げられる。本研究では、フエフキダイ類やフエダイ類などの水産有用種を対象にして実験を行う予定であったが、初年度の調査期間中に実験に十分な個体数が確保できた種は非水産有用魚種のデバスズメダイだけであった。来年度は調査時期を変更するなどして他魚種を対象にした同様の着底場選択実験を行う予定である。また、研究実施計画では、赤土汚染の影響が強い沿岸とそうでない沿岸を選定して、両沿岸における対象魚類の分布パターンの違いも調べる予定であったが、この調査については悪天候等などの事情で実施することが出来なかった。野外分布調査については、次年度以降に行うことで、室内実験の結果と比較検討したい。全体としては、初年度で実験方法を確定できたことから概ね順調と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,赤土,農薬,養殖餌料,生活排水物質などの様々な汚染物質を対象に実験を行うことで、水質汚染が魚類の着底場選択に与える影響を明らかにすることを目的としている。上記汚染物質のうち、赤土については初年度でデバスズメダイを対象にした実験で顕著な成果を上げることが出来たが、次年度は水産有用種を含む様々な魚種で同様の実験を行うことで、赤土汚染が魚類の着底場選択に及ぼす影響の普遍性を明らかにする予定である。特に、サンゴとは異なる基質(例えば、海草など)を好む魚種を対象にした実験も行うことで、赤土汚染が魚類の着底場選択に与える影響を基質ごとに魚種間で比較・定式化する。また、赤土汚染が嗅覚による着底場選択に及ぼす影響のメカニズムの解明(赤土が嗅覚器官に直接影響を与えているのか否か)も並行して進める。赤土以外の汚染物質は農薬を候補としているが、農薬を用いた嗅覚実験については赤土実験の進捗状況を踏まえながら実施する。また、初年度に実施できなかった汚染の影響がない沿岸とある沿岸の主要生息場(例えば,生存サンゴ域や海草藻場)における着底稚魚の分布調査も行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|