研究課題/領域番号 |
24780188
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
中村 洋平 高知大学, 教育研究部総合科学系, 准教授 (60530483)
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キーワード | 国際研究者交流 / フランス / 海洋汚染 / 着底場選択 |
研究概要 |
熱帯・亜熱帯域では、沿岸開発等による赤土流出でサンゴ礁が急速に劣化している。熱帯・亜熱帯域で問題となっている赤土汚染は仔魚の着底場選択と着底後の行動様式に負の影響を及ぼすと考えられているが、具体的な影響についてはよくわかっていない。そこで、本年度の調査では生サンゴに対して強い選択性を示すデバスズメダイの着底期の仔魚を対象に、嗅覚による着底場選択および着底後の行動様式に赤土が及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。野外では生サンゴを吊るしたライトトラップと生サンゴのないライトトラップをそれぞれ設置し、両者に加入する仔魚の数を比較した。室内実験では2択式実験水槽に生サンゴと死サンゴをそれぞれ2-3時間浸した海水を流し込み、実験水槽中央に放した仔魚がどちらの海水に対して選択性を示すか調べた。同様の実験を赤土(50㎎/リットル、200㎎/リットル)を添加した状態でも行い、赤土汚染がない時と同様の海水選択性を示すのか調べた。次に着底後に対する影響を調べるために、赤土汚染濃度の異なる実験水槽内で遊泳速度を比較した。また、赤土汚染区と対照区の実験水槽で供試魚を飼育し、1週間後に両操作区間で肥満度に違いがあるかどうか調べた。野外実験では、生サンゴのないライトトラップよりも生サンゴのあるライトトラップに多くの仔魚が加入した。海水に対する選択性実験では、海水中に含まれる赤土濃度が増すごとに生サンゴに対する選択性がなくなった。遊泳速度については、海水中の赤土濃度が増すごとに速度が増した。一方、肥満度については赤土汚染区は対照区と比べて低い値を示したことから、赤土汚染が仔魚の摂餌活動に負の影響を及ぼしていることが考えられた。以上の結果から、赤土汚染は仔魚の嗅覚による着底場選択と着底後の成育に負の影響を及ぼすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に引き続き、沖縄県で最も一般的な海洋汚染物質といわれている赤土に焦点を当てて実験を行った。生サンゴ・死サンゴに対する仔魚の選択性実験(水槽実験)については、初年度とは異なる実験デザインで再検証を行い、同様の結果を得ることができた。また当初研究計画には含めていなかった着底後の成育に関する室内実験も加えたことで、仔魚の着底前後の一連の過程に対する赤土汚染の負の影響を明らかにすることができたことは大きな成果として挙げられる。さらに、初年度では取り組むことができなかった野外での実験も行うことで自然下でも嗅覚による生息場所選択が行われていることを確認した。一方、初年度と調査時期を変えることで水産有用種のフエダイ類・フエフキダイ類の採集を試みたものの、調査期間中に水槽実験に十分な個体数が確保できた種は非水産有用魚種のデバスズメダイだけであった。しかしながら、野外実験ではフエダイ類・フエフキダイ類も少数ながら加入してきたため、これらの魚種の加入データについても今後解析する予定である。また、研究実施計画では、赤土汚染の影響が強い沿岸とそうでない沿岸を選定して、両沿岸における対象魚種の分布パターンの違いも調べる予定であったが、台風等の影響で時間的に実施することができなかった。野外分布調査については、来年度に行うことで、室内実験の結果と比較検討したい。赤土以外の汚染物質が嗅覚による着底場選択に与える影響については、研究協力者が初年度と同様の実験デザインで農薬を対象に実験を進めているということなので、その結果を待ちたい。全体としては、初年度で得られた実験結果の再検証に加えて、いくつかの研究項目については初年度の内容を発展させることができたため概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、赤土、農薬、養殖餌料、生活排水物質などの様々な汚染物質を対象に実験を行うことで、水質汚染が着底場選択に与える影響を明らかにすることを目的としている。上記汚染物質のうち、赤土については初年度と次年度の実験によって明らかに嗅覚による着底場選択に対して負の影響を及ぼしていることが明らかとなった。しかしながら、赤土汚染が嗅覚による着底場選択に及ぼす影響のメカニズムについてはまだ明らかになっていない。赤土自体が嗅覚器官に直接影響を与えているのか、あるいは酸性土である赤土によって弱酸性化した海水が嗅覚に対して負の影響を与えているのか解明する必要がある。またデバスズメダイ以外の魚種で同様の実験を行うことで、赤土汚染による魚類の着底場選択への負の影響の普遍性を検証したい。汚染物質として研究実施計画書に挙げた養殖汚染と生活排水には予想以上に多くの化学物質が含まれていることが判明したために、これらの物質について個々に実験を進めるのは時間上困難と判断した。一方、農薬の影響については研究協力者が初年度の水槽実験と同様な方法で実験を進めていることになっている。赤土汚染と農薬汚染は降雨後の土壌流出によって同所的に発生するために両者の結果を比較解析したい。したがって、最終年度も熱帯地方で最も深刻な汚染物質といわれている赤土に焦点を当てて上記課題に取り組むことで赤土汚染の影響に関する研究成果の充実を図りたい。また、初年度と次年度に実施できなかった赤土汚染の影響がない沿岸とある沿岸における着底稚魚の分布調査も行う予定である。
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