最終年度はタイ、フィリピンの既存データの整理、カンボジア漁村(ポーサット州、コンポンチュナン州)における漁業活動と漁業コミュニティーの役割を中心としたフォローアップ調査、漁業制度の整理及び研究成果の公表を行った。 カンボジアのトンレサープ湖の漁業は、2011-12年の漁業制度改革後、商業的な大規模漁業のほとんどを中止し、コミュニティー漁業制度を中心とした小規模漁業へとシフトした。2001年よりコミュニティー漁業制度自体は導入されていたものの、資源管理母体としての役割は改革後に重要性を増した。現在のコミュニティー漁業制度では、各漁業コミュニティーに管理漁場が定められており、そのパトロールが主な活動となっている。しかし、排他的な漁場の利用が出来ないことや、普段の使用漁場と管理漁場が異なる場合が多いこと、また、パトロール費用の捻出が難しいことから、パトロールの頻度は低い。また、各漁業コミュニティーは、管理漁場内における漁業規制などのルール作りが認められているが、実行に至っていない。コミュニティー漁業制度下において有効な資源管理の実施には、まず各漁業コミュニティーが必要な経費を賄うことの出来るシステムを作ること、また、漁業者が活動に参加するインセンティブが不可欠である。タイのラヨン沿岸域では、漁業者が定置網漁業を共同操業し、必要経費を差し引いた上で利益を分配する方法をとっており、漁獲物の鮮度がよいことから仲買業者が好んで買い付けている。カンボジアのコミュニティー漁業制度においても、漁業者と仲買業者が搾取的な関係にない地域においては、仲買業者を巻き込んだ共同出荷、販売の体制を整えることで、資源管理の指標となるデータの蓄積に加え、パトロールに必要な経費の捻出、更には漁業者が漁具の使用や規制に対して興味を持ち、資源管理への意識を高める可能性が示唆された(Hori 2015)。
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