研究課題/領域番号 |
24780190
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
梅澤 有 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (50442538)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 生態・行動 / アミノ酸同位体 / 硝酸同位体 / 近海魚類 |
研究概要 |
黒潮分岐流が流れ込む長崎県西方の東シナ海および長崎近海を対象海域とし、長崎大学の河邊玲准教授の研究室から、バイオロギングによって、この対象海域内での遊泳行動が特定されているヒラメを入手した。また、長崎大学の海棲哺乳類研究室と共同で、大村湾、有明海海域に生息し沿岸等に漂着したスナメリ個体、および胃内容に含まれることが多い餌生物を入手した。試料は、脱脂処理後、乾燥させて粉末試料処理を施し、バルク試料の炭素・窒素安定同位体比(d13C・d15N)の分析を行った。 ヒラメについては、平戸沖回遊魚と大村湾回遊魚では、d13C・d15N値に大きな違いが見られた。また、平戸沖と同様に湾外の外洋域に位置する五島灘沖で捕獲された個体は、大村湾内の回遊魚とほぼ同じ値を持ったことから、これらの個体は大村湾で育った個体が、五島灘に移動してきたと推定された。スナメリについても同様に、有明海と大村湾の海域の違いによって、d13C・d15N値に大きな違いが見られ、大村湾の個体は、有明海の個体に比べて、d15N値の低い値が記録されていた。しかしながら、これらの結果が、海域別の食物連鎖の最初に位置する無機態窒素(DIN)、無機態炭素(DIC)の同位体比の違いを反映したものであるのか、もしくは、餌としている食物の栄養段階の違いのためであるのか解釈ができなかった。 今後、これらの個体のアミノ酸窒素安定同位体比を分析することにより、d15N値の違いが、遊泳環境の違いに依るものか、摂餌生態の違いに依るものか、明らかにできると考えられる。 また、海洋開発機構を訪問して、アミノ酸同位体比分析用試料の前処理方法の見学を行った。試料を冷凍保存した後、凍結乾燥して粉末化し、加水分解、脱脂、誘導体化、脱水処理をするという一連の手順を行う設備を、長崎大の実験室内に立ち上げ、試料処理のトレーニングを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
おおよその行動履歴がわかっているヒラメ試料を15個体、おおよその行動範囲や胃内容物からの摂餌形態がわかっているスナメリ試料を80個体手に入れることができ、それらの同位体比解析が終了していることで、今後のアミノ酸同位体比分析に進むにあたっての準備ができている(仮説をたてて、どの試料を優先的に分析していけば、興味深いデータを取ることができるかの検討を終えている)。 当初の予定では、24年度中に、一部の試料についてはアミノ酸の窒素同位体比分析まで進めていきたいと考えていたが、国内の他機関で予定していた分析が、マシンタイムの調整が出来ず分析できなかったことが、マイナス要因である。しかしながら、アミノ酸同位体分析の前処理についてもトレーニングが進んでおり、平成25年度の最初に分析開始ができる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
同じ海域内で、もしくは、異なる海域間で取得された魚試料の中から、バルクのd13C・d15N値が大きく異なった魚試料のアミノ酸(グルタミン酸、フェニルアラニン)のd15N値を分析し、d15N値の違いが、遊泳環境の違いに依るものか、摂餌生態の違いに依るものか、明らかにしていく。栄養段階が同じでありながらバルクのd15N値が異なった場合、食物網ピラミッドの底辺にあるDINの同位体比の空間マッピングを利用して、魚の行動範囲の生態系海域を推測し、それを、バイオロギングデータと比較して、相互の関係を調べる。一方で、栄養段階が異なる餌を捕食していることが明らかとなった場合、その環境要因について明らかにしていく。最終的に、他の研究者による独自の調査(胃内容解析・行動解析など)と照合しながら、近海魚類の同位体指標を用いた摂餌・行動生態に関する解釈法を確立していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
【現在までの達成度】において記したとおり、アミノ酸同位体比分析のためのマシンタイムの調整が出来なかったため、試料を粉末化までは行ったが、劣化が心配される誘導体化までの処理を行わず保存している。そのため、試料の前処理に必要な消耗品経費、アミノ酸同位体比分析のために他大学に行くための出張旅費、アミノ酸同位体比分析に必要な、ヘリウムガス、燃焼管やGCカラムなどの消耗品経費に考えていた研究費を、25年度に繰り越すこととした。 H.25年度の研究費の使用計画として、下記のように見積もっている。 ●餌候補と考えられる魚試料採取のための傭船料や魚購入費用、旅費として30万円程度。バルク安定同位体比の分析や、アミノ酸同位体比の分析のための、京都大学や東京大学への出張旅費(2名分x3回)として、50万円程度。また、国内学会および国際学会(Ocean Science Meeting:ホノルル)への出張旅費(2名分)として、40万円程度を予定している。 ●バルク安定同位体比およびアミノ酸同位体比分析のための、試料前処理や分析に係る消耗品購入費用として85万円程度を予定している。 ●魚試料の解剖や、試料の粉末化のためのアルバイト雇用の賃金として20万円程度、試料送付等の郵送料、投稿論文の英文校閲料金等のその他経費として20万円程度を予定。
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