研究課題
バイオロギングによって、対象海域内での遊泳行動が特定されているヒラメ、および各海域の懸濁態有機物のバルク炭素・窒素安定同位体比(d13C・d15N)の分析を行った。また、一部の試料については、フェニルアラニンとグルタミン酸のd15N分析を行った。ヒラメのバルクd13C・d15N値は、平戸沖回遊魚(d13C=-16.0 ± 0.2, d15N=13.5 ± 0.1)と大村湾回遊魚(d13C=-15.4±0.3, d15N=15.5±0.5)では、特にd15N値に大きな違いが見られた。また、平戸沖と同様に湾外の外洋域に位置する五島灘沖で捕獲された個体は、大村湾内の回遊魚に近い値(d13C=-15.2±0.2, d15N=14.8±0.6)であった。このことから、1)平戸沖回遊魚は他と比べて栄養段階の低い餌を食べているか、2)各海域の食物連鎖を支える植物プランクトンの値の違いを反映していることが想定された。続いて、これらの個体群のアミノ酸のd15Nから求めた推定栄養段階は、平戸沖回遊魚、大村湾回遊魚、五島灘試料それぞれ、3.5、3.1、3.3という値が得られた。このことから、1)の仮説は棄却され、長崎近海のヒラメのバルクの同位体比の違いは栄養段階の違いではなく、海域の食物連鎖を支える植物プランクトンの値を反映していることが示唆された。本研究から、植物プランクトンのd13C・d15N値が空間的に大きく異なる沿岸海域において、近海魚類のバルクの同位体比は、魚類の遊泳行動(索餌行動)範囲を反映するものとして利用できる可能性が高いことが示された。バイオロギングで大村湾放流魚が五島灘沖で発見されることと、五島灘沖で漁獲されたヒラメのバルクのd13C・d15N値が、大村湾回遊魚と近い値を示すことから、五島灘沖で棲息するヒラメの中には、大村湾で育った個体も多く存在することが推定された。
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Biogeosciences
巻: 11 ページ: 1297-1317
10.5194/bg-11-1297-2014