外来種の定着メカニズムを考えるうえで、複数の外来種が同所的に生息する今日の状況からすれば、外来種間の関係についても把握する必要がある。本研究では、外来サケ科魚類ニジマスとブラウントラウトを対象に、外来種間の種間関係が外来種の定着に与える影響について検討した。この両種は、国内外を問わず在来生態系への影響が懸念されており、その基礎生態学的知見は、両種の管理方針を定める際に貢献できる。 まず、北海道千歳川水系における両種の分布の変遷を既存文献と自身の野外調査データから比較した。その結果、1990年代は両種が同所的に生息する地点が多かったが、2010年代にはほとんどの場所でブラウントラウトのみが生息していた。ニジマスは、ブラウントラウトが侵入できない堰堤等の移動障壁の上流側で確認できた。このような状況と、両種のニッチ重複が大きいことを示した先行研究を踏まえると、ニジマスからブラウントラウトへの置換について、種間競争が寄与していると考えられた。一連の結果は、Hasegawa et al. (2014) Aquatic Invasions 9:221-226として発表されている。 最終年度は、両種間の競争関係を理解するために、野外操作実験を行い、採餌量と成長率から競争の影響を評価した。実験区として、各種単独区と混成区を設け、さらに各区に低密度区、高密度区を設けた。その結果、ブラウントラウトはニジマス、密度の影響ともに検出できなかった。ニジマスはブラウントラウトがいる高密度区で採餌量が低下した。また、単独・混成問わず高密度区で成長率が低下した。以上より、ニジマスは密度増加の負の影響を受けやすく、ブラウントラウトによる負の影響も受けることが示された。したがって、ニジマスからブラウントラウトへの置換に種間競争はある程度寄与していると考えられた。つまり、ブラウントラウトはニジマスを競争排除して千歳川水系に定着したと考えられる。
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