研究実績の概要 |
本研究では、プロテオーム解析及び免疫組織化学的手法を用いて魚肉軟化現象の解明を目指した。まず、プロテオーム技術(二次元電気泳動法, 自動エドマン法, 質量分析法)を用いてマダイ筋肉軟化に伴い崩壊するタンパク質を同定した。結果、軟化に伴いミオシン重鎖の分解及び可溶化、トロポミオシンの分解が認められた。50~60 kDa付近に、軟化に伴う分解産物が多数検出された。そのN末端配列及びMSスペクトルの情報を収集しプロテアーゼによるタンパク質の切断部位を推定したが、魚類ゲノムデータの不足のため分解に関与するプロテアーゼの特定までには至らなかった。 そこで、個々の筋原線維タンパク質の分解に着目し関与するプロテアーゼの特定を試みた。活マダイの血中にプロテアーゼ阻害剤を注入し即殺後、魚体を保存した。その筋肉をウェスタンブロットに供した結果、ミオシン重鎖、トロポミオシン、β-コネクチン、トロポニンIの分解には内在性セリン並びにメタロプロテアーゼが、α-アクチニンの分解にはシステインプロテアーゼが主に関与すると示唆された。 更に、免疫電子顕微鏡法により内在性プロテアーゼの筋細胞内局在を解明すべく、特異抗体の作製及び選定を行った。魚類特有の筋原線維結合型セリンプロテアーゼMBSPに対する抗ペプチド抗体を作製した。トリプシン型セリンプロテアーゼG1のcDNAクローニングにより本酵素の正体がHABP2だと判明したため、抗ヒトHABP2抗体を選定した。魚類筋肉カテプシンBのcDNAクローニングによる構造決定から抗哺乳類カテプシンB抗体を選定した。また、MMP-9及びカルパインの検出には先行研究で実績のある抗体を選定した。現在、これらの抗体を用いて魚筋肉内在性プロテアーゼの筋細胞内局在を免疫染色法により解析している。 本研究の成果として、魚類筋肉軟化研究の発展に寄与し得る重要な基礎的知見が得られた。
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