本研究課題は戦時期から戦後(1950年代)にかけて農林(農商)省によって行われた、(土地・物・金でなく)人を直接の対象とする政策を「農民政策」として捉える視角のもと、近現代日本農業史研究に関する新たな把握を提示することを目的として実施された。具体的課題として、(1)戦時における農業動員について農村現場における実態、(2)戦後における農民教育・開拓・青年隊・海外移住政策等の展開過程を解明し、(3)上記(1)(2)の考察を踏まえつつ農民政策の見地より日本農政における戦時と戦後の関係について考察を行った。その結果、大正期の小作立法に端を発する「石黒農政」について、日本農政という枠内において農民の保護育成を追求した一連の施策と把握し、かかる農政の系譜は、産業政策として自らを規定した1960年代以降の基本法農政開始をもって終焉するという戦後農政把握を提示した。 以上の研究成果は単著『日本農民政策史論―開拓・移民・教育訓練―』(京都大学学術出版会、2013年、340頁)として刊行され、2015年度日本農業経済学会学術賞を受賞した。 最終年度においては、上記単著に対する書評へのリプライを行ったほか、農民政策に関与した人物に関して辞典の事項執筆を行った。さらに、今後の研究課題として1950年代の農政転換期に関する実証分析を行うため、農業開発プロジェクトや世銀農業借款に関する外交文書の資料調査を行った。
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