本研究は,生産性の異なる日系食品企業の直接投資の目的と投資先地域の選定方法について明らかにし,直接投資が今後,我が国のフードシステムや投資先経済に及ぼす影響を考察することを目的とする.平成26年度は,直接投資が受入国の経済にどのような影響を及ぼしているのか,進出企業の生産性の違いを考慮に入れ,分析を行った.分析の結果,生産性の高い多国籍企業が参入することで,生産性の低い地場企業の退出が促されることが分かった.また,現地で操業する企業全体の平均生産性が向上することも示された. 本研究結果をまとめると,日系食品企業は,農業の生産性改善や関税削減を通して農産物の価格低減に積極的に取り組む国々に参入する傾向にあることから,今後はそうした国々からの食品輸入が増えると考えられる.ただし,生産性の高い企業ほど原料となる農産物価格の低下に敏感に反応するので,過度の誘致政策は,生産性が低く,現地経済への波及効果も小さい企業の誘致につながる.言い換えれば,過度な誘致政策を行わず,生産性の高い企業に誘致の対象を絞ることが,誘致政策の費用対効果を高めるには有効である.さらに,生産性の高い日系食品企業の参入は,現地の食品市場での競争を激化し,競合する地場企業,特に生産性の低い企業の市場からの撤退を促す.現地で操業する食品企業の生産性が平均的に高まることから,日系食品企業の参入は,消費者を中心に,投資先の経済状態の改善に貢献すると期待される.
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