研究課題/領域番号 |
24780216
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
佐々木 貴文 鹿児島大学, 水産学部, 助教 (00518954)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水産教育 / 学歴社会 / 学歴資格 / 水産学校 / 生徒の属性 / 社会階層 / 社会史 |
研究概要 |
本研究の目的は、漁業と学歴資格の関係から、明治から現代にいたる日本漁業の展開を描き直すことにある。従来、わが国の漁業の展開は、漁獲量や水揚金額の推移、漁船の大型化や新漁法の開発など生産手段の高度化からひも解かれ、「近代化」といった言葉で位置づけられてきた。しかし、それでは漁業の展開を直接担った労働力に対する理解があまりにも不足しているといえる。そこで、本研究では、“漁業”と“近代化”を媒介するものに、労働力ならびにその労働力に付与された学歴の位置づけに注目し、水産業の展開を労働の社会史として説明することを試みることとした。 こうした課題設定のもとでおこなわれた研究の一年目となった本年度は、明治期における水産教育の成立と展開過程における、水産教育機関に対する外部評価の実態を把握する方法の追究を主要な課題とした。資料の分析ならびに検討の結果、水産教育機関に対する評価軸として3つの観点を設定することとした。すなわち一つが、管轄の官庁や地方庁が学校の社会的評価をいかに確保しようとしたのかについて、二つが、カリキュラムの内容及び程度の変化について、三つが、入学者の属性についてとした。 こうした分析軸の設定によって、蒐集する資料の限定も可能となり、効率よく蒐集作業を進めることが可能となった。また、実際の分析作業も開始しており、かかる3つの視点で水産教育機関の外部評価を把握することが可能であると判断するにいたっている。なお、こうした点については、技術教育学会における報告をおこなっている。そして、後述する通り、漁業経済学会『漁業経済研究』に論文投稿し掲載されるにいたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、分析の枠組みを次のように決定した。すなわち、漁業は生産構造により、沿岸漁業と沖合・遠洋漁業とにわける。時代は、1945年を境に「戦前」と「戦後」にわける。そして、それぞれの漁業・時代に人材を供給していた学校(学歴を付与した機関)を限定して分析作業を実施することとした。 このうち本年度は、戦前の教育機関として福井県の水産学校を分析対象として分析作業をおこなうとともに、戦後の教育機関として静岡県立漁業高等学園を対象として現地調査などを実施した。 この結果、沿岸漁業との位置関係を検討した福井県の事例については、単著論文(査読つき)「水産業と学歴の近代史-福井県立小浜水産学校における人材養成に注目して-」、漁業経済学会『漁業経済研究』、Vol.57、No.1、pp.87-105 (2013)をまとめるにいたった。もう一方の、遠洋漁業との位置関係を検討した静岡県の事例については、調査結果を現在まとめているところであり、近日中の成果公表を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究方法に大きな問題はなかったと判断しているため、引き続き、同様の手法にて研究を進めていく予定である。 すなわち、戦前・戦後の区分にてらして、分析対象とする近代の教育機関を設定するとともに、現代の教育機関としてもう一つ設定する。設定する際には、沿岸漁業対応であるかどうかといった漁業の生産構造を注視しながら対象を決定する。現在の予定では、戦後の沿岸漁業対応という観点で、北海道立漁業研修所に関する調査を実施する予定である。 この北海道立漁業研修所は、全国に4つある公立漁業研修所の一つであり、沿岸漁業対応としては比較的順調に教育実績を積み重ねているようである。文部科学省が管轄する学校教育法上の「学校」ではないため、従来、ほとんど研究対象となっていない。こうした点にも注目しながら、生徒の属性や付与する学歴の意味を明らかにしていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、全国の公文書館および図書館などでの資料蒐集と、教育機関での現地調査の二つを重要な作業と位置づけ、研究を進めている。そのため、研究費については旅費が重要な部分を占めることとなる。また、資料の蒐集作業に不可欠な消耗品や、図書館などでの複写費用も比較的多くの部分を占めることとなる。よって、次年度もこうした点から研究費の配分を決定する計画である。
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