本研究の目的は、近代から現代にいたる漁業の展開過程に、労働者(漁業就業者や漁業における外国人技能実習生)の姿を重ね合わせ、漁業の発展に彼らが果たした役割を表出させることにあった。その際、彼らが獲得した学歴の位置づけ・役割に注目し、今日にいたる漁業の特質形成・変化を社会史として把握することを目指した。この結果、最終年度にあたる平成27年度の研究実績の概要については、以下の通りとなる。 日本漁業の縮減傾向が継続し、産業としての優位性を失うなか、新規漁業就業者は水産高校等といった水産教育機関で学び学歴とともに知識や技能を獲得することを求めなくなりつつあることが明らかとなった。ただ、公立漁業研修所が設置されている北海道の事例はややこの傾向とはことなっていた。ホタテ養殖業やサケ定置網などの比較的経営の安定した漁業を営む経営体は、時間と費用がかかる教育機関での後継者養成に躊躇する様子はなく、結果、県立の漁業就業者養成機関である北海道立漁業研修所は、安定的に生徒の募集ができるようになっていた。 日本人にとって漁業就業に学歴が意味を持たなくなる一方、日本漁業に参入しようとする外国人労働者にとっては、漁業就業と学歴が密接に関係していることが明らかとなった。すなわち、日本各地で沖合漁業に従事するインドネシア人技能実習生は、母国でエリートとされる国公立の水産高校等で学歴を得て、日本の漁船に乗船することが“立身出世”の一手段となっており、漁業と学歴との間に強い結びつきが確認できた。 なお本年度は、こうした研究成果について、「外国人労働力に支えられた日本漁業の現実と課題-技能実習制度の運用と展開に必要な視点-」『水産振興』および「沿岸漁業就業者の安定確保に貢献する北海道立漁業研修所」『漁業と漁協』としてまとめた。
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