最終年度は,これまでの研究で得られた「企業側の農山村地域における諸活動に対するニーズや課題認識」を踏まえて研究を開始した。まず,企業側が農業経営への参入,あるいはさらに包括的な環境保全活動への参加を実践する際の受け皿となる地域側のニーズを把握する必要がある。そこで,農山村地域の農業関係の自治組織代表者へのアンケート調査を実施し,地域への企業の参入に対する見解を伺った。その結果,地域農業の維持が深刻な地域においては,企業の参入に対する肯定的な意見と拒絶する意見が混同していることが明らかとなった。ここに,「過疎地においては少なくとも空間的には企業参入の余地は十分である」という単純な結論には至らないと結論づけられた。そこで,さらに企業側の意向を詳細に捉えるために,多様な特性の企業を複数選定し,農山村地域との協働を進める部署の代表者への聞き取り調査を敢行した。 結果,現状では既に地域に参入して,農業支援や環境改善事業に取り組む企業の特性には一般性は見いだしにくく,逆に参入していない企業にはある程度の一般性が見いだせるという統計的な傾向が確認された。つまり,今後農業経営を中心として農山村地域との結びつきを検討する地域は,過去に参入した企業の事例を参考にするために情報収集をすると見られるが,いわゆる成功事例には一般性は見いだせないため,方法論を導入することには注意が必要である。他方で,いわゆる失敗事例や非参入企業にはある程度の共通性が見られたため,内省的に自社の強みや注意点の確認を行う際には,過去の事例を参照することは有効である可能性がある。
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