研究課題/領域番号 |
24780229
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
伊藤 浩二 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 連携研究員 (30530141)
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キーワード | 不耕起V溝乾田直播農法 / 水田雑草 / 埋土種子集団 / 農法履歴 / 生物多様性 |
研究概要 |
水稲の不耕起V溝乾田直播農法(以降V直農法)は、経営規模拡大に対応した省力化技術として、東海北陸地方の農家を中心に普及が進んでいる。聞き取りから本農法は特定の圃場に固定的なものではなく、圃場の水もちや雑草の繁茂具合を勘案して、慣行栽培や大豆栽培へ転換する場合があることが分かった。農法の転換は、水管理や農薬・肥培管理など、水田生物にとっての圃場環境が大きく変わることを意味する。また農法履歴の違いは、過去の農法環境下で形成された埋土種子集団や栄養繁殖体を通じて、農法転換後の水田雑草群落の種組成に影響を与える可能性がある。 そこで本研究では、V直農法の導入による雑草群落組成の変化に着目し、V直農法の継続年数の違いよる種組成の変化とそのプロセスを解明することを目的とした。2013年度については、石川県珠洲市にある農業生産法人が管理する水田において、過去4年間の農法履歴に基づき、V直農法の継続年数が1年、2年、5年の圃場を計12か所選び、米収穫直前の2013年10月4日と5日に1m×1mの方形枠を圃場面積に応じ6-9か所設置し、植生調査を行った。 調査の結果、V直農法の継続年数が5、2、1年のそれぞれについて、1方形区あたりの出現種数は4.9種、5.6種、4.9種となり、継続年数による植物種多様性に統計的に有意な差は認められなかった。継続年数カテゴリーごとの種組成の類似性を比較したところ、いずれのカテゴリー間でも統計的有意差が認められた。指標種分析の結果、5年継続のV直農法水田での指標種としてイヌビエ、イボクサ、継続年数2年の指標種としてアオウキクサ、クサネム、継続年数1年の指標種としてアメリカアゼナ、トキンソウ、タネツケバナ、フラスコモsp.が挙げられた。このことから、慣行栽培からの転換が間もないV直農法水田では、慣行栽培で特徴的な一年草雑草が残存する一方で、V直農法の継続によりイネ科雑草の繁茂が懸念されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では3つの目的、すなわち①農村景観内での直播農法導入にかかる土地利用・農法の時間的変遷およびその空間分布の評価、②景観スケールおよび圃場スケールにおける植物種の空間分布特性の解明と、その分布を説明する各種環境要因および農法変遷パターン要因の相対的影響力の評価、③保全上重要な植物種に関する、農法との共存を可能にする機構(特に発芽生理の観点)の解明を挙げている。2年目は目的①・②については、予備調査から継続的に調査を行っている珠洲市N地区において調査を行い、農法変遷と雑草群落の関係性について一定の結論を得ることができた。目的③については、埋土種子集団の播きだし予備実験は行ったが、発芽実験については種子材料の不足により本実験は3年目に持ち越しとなった。 2年度の計画の進行具合として遅れていると判断した理由は以下のとおりである。本研究は結果の一般性を確認するため、当初3地域を対象に調査を実施する予定であったが、予備調査から継続的に調査を行ってきたN地区に絞って調査を行った。これはV直農法と慣行栽培の転換パターンが同一地区内において予想よりも複雑であることが判明し、限られた調査努力量を同一地区内に集中させた方が、より実りある結論を得られると判断したためである。調査地区の追加については、関係者からのヒアリング、今年度の調査結果を踏まえ、調査の可否を判断したい。また、植生調査結果に基づく統計モデリングに必要な土壌環境、水環境など一部の環境条件については、今回十分な測定データが得られなかったため一部の統計解析を行うことができなかった。多地点での調査可能な方法を再検討し、次年度再度実施したい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として第一に、珠洲市N地区を中心にひきつづき農法間ごとの植物種組成の野外調査と環境要因、農法変遷パターンの調査を行い、統計モデルを作成する。 また上記の野外調査によって得られた農法間の種組成のパターンが生じる原因となった、環境条件に対する植物種の生態的応答のメカニズムを確かめるため、2つの実験を行う。1つ目は、珠洲市N地区の埋土種子集団を含む現地土壌を用いて、実際の農法を模倣した水位変動パターンと土壌耕起時期をコントロールしたメソコズム実験(実験水槽での土壌撒き出し実験)を実施し、埋土種子集団から成立する植生を調査する。これによりV直農法下で希少種を含む雑草群落の成立を可能にする機構の解明を試みる。2つ目は、特に直播農法との関連が強い植物種(ノビエ類、コナギ、クサネム等)や保全上重要な種(ミズオオバコ、キクモ等)の種子を現地から採取し、次年度以降最終年まで、人工気象室条件下での前処理(保存状態)および温度・光条件を変えた発芽試験を実施し、発芽適温等の解明を行うとともに、永続的埋土種子集団(1 年以上の寿命を持つ埋土種子集団)の形成可能を検討し、発芽特性の観点から現地植生と農法の関連性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降に使用する予定の研究費が101,626円発生しているが、計画進捗の変更により調査地点数が減少したことに伴う謝金・旅費等の余剰である。 農法ごとの植物種組成の野外調査と環境要因の調査を行うにあたって、調査補助員および聞き取り調査協力に対する謝金、環境測定機器の購入を計画している。また、メソコスム実験(実験水槽での土壌撒き出し実験)にあたり、実験継続に必要な、環境計測機器、栽培容器等の購入を計画している。さらに営農上問題となる植物種や保全上重要な種の発芽生態を明らかにするための、人工気象室条件下での発芽試験に必要な、シャーレ等の消耗品の購入費、調査補助員の謝金を予定している。繰り越し分については、次年度に調査地点数を増やすことにより使用する予定である。
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