研究課題/領域番号 |
24780231
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
濱 武英 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (30512008)
|
キーワード | 有機態窒素 / 水田 / 排水路 / 底泥 |
研究概要 |
研究初年度と同様,水田の灌漑期と非灌漑期に,琵琶湖周辺に分布する低平地水田地区4地区において,水田土壌,排水路底泥,排水等を採取し,化学分析によって土壌や底泥と水に含まれる窒素,リン,炭素の成分構成と濃度を計測した。また,排水路の底泥を非破壊状態でアクリル円筒を用いて採取し,水深10cmの湛水条件で,実験室にて25℃の恒温条件で1か月間培養を行った。 水田土壌や排水路底泥には,全窒素分の9割以上が有機態として存在していたが,培養によって直上水に溶出した窒素はおよそ70~80%が無機態(アンモニア態)であった。培養試験においては,懸濁態有機態窒素はほとんど計測されず,有機態は主に溶存態として溶出した。また,培養試料直上水を三次元蛍光分析し,有機態窒素がチロシン様の物質からなることが示唆された。さらに,土壌中に存在する全窒素や有機態の濃度に比べると,培養によって溶出した窒素量や変化した土壌中の濃度は数%と低く,土壌中の窒素は主に難分解性の有機態窒素であることが確認された。 塩化カリウム水溶液やリン酸緩衝液など様々な化学抽出法を土壌窒素の抽出に適用し,分解性との比較を行った。土壌肥料学の分野で利用される熱水(80度)または熱塩化カリウムによる抽出によって推定される土壌窒素濃度が易分解性の有機態窒素画分の大きさを表す可能性が示唆された。 以上の成果は,2回の国際会議発表,1回の国内学会発表,1本の国際誌論文掲載によって公表した。そのうち,国際誌に掲載された論文は,内容が評価されてExcellent Research Awardを受賞した。今後さらに,2回の国際会議での発表と論文投稿を予定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,有機態窒素の化学形態分画(現状の把握),分解特性の解明,水田地区における移動性の解明の主に3つの段階からなり,最初の2年間は化学形態分画と分解特性の解明を予定していた。所属機関の異動(京都大学から熊本大学に異動)により,平成25年度当初は研究備品(恒温振とう器等)の輸送などによる実験環境の整備に時間を費やした。しかし,熊本大学と京都大学の2機関で実験を実施できるようになったため,定期調査によって採取した土壌試料の化学分析や培養試験は,予定よりも早く分析することができ,一昨年度の試料と合わせて予定分の分析を全て終了することができた。また,年度後半には,分析によって得られたデータの解析を終え,一部を国際誌に発表することができた。 水田で採取した土壌試料の窒素計測や培養試験の結果から,研究当初に想定していたよりも難分解性の有機態窒素の割合が大きく,有機態窒素は段階的な分解特性をもって土壌中に存在しているわけでないことがわかった(これらの知見については,現在,国際誌や国際会議での発表を準備している)。当初の予定では,分子量分画の実施によって,難分解性から易分解性まで有機態窒素を連続的に分画する予定であったが,そのような分析の必要性は低くなったと判断した。したがって,研究は順調に進んでいると考えられる。 所属機関の異動のため,滋賀県や熊本県内では,昨年度内に水田地区に対して集中的な水文観測機器を設置することはできなかった。しかし,研究協力者(農村工学研究所,九州沖縄農業研究センター,農業環境技術研究所)や地元の土地改良区と意思疎通を図っており,すでに水田への計測機器の設置計画について了解も得られている。最終年度は,順調に水田地区での観測を開始することができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
前述のように,当初に想定していたよりも難分解性の有機態窒素の割合が大きく,有機態窒素は段階的な分解特性をもって土壌中に存在しているわけでないことが示されたため,クロマトグラフによる分子量ごとによる分画は省略し,有機態窒素の分析を難分解性と易分解性の2つに分けて実施する方がより効果的に研究成果を上げることができると考えている。ただし,分解特性の原因を明らかにするため,引き続き培養試験を実施し,溶出成分や土壌抽出成分の窒素画分の定量や蛍光分析を行う。さらに,NMR分析によって,化学構造の推定も行う予定である。 これまで,水文や気象観測に関する調査や解析作業を省略するために,琵琶湖の水田地区に限定して調査を進めてきたが,これまで明らかにした水田土壌の有機態窒素の分解性が,既往研究の報告と異なり,調査地に特有である可能性も示唆されたため,他地域での調査を実施したいと考えている。具体的には,農村工学研究所と九州沖縄農業研究センターの協力を得て,それぞれ霞ケ浦周辺の水田地区(灰色低地土壌)と熊本県白川中流域の水田地区(黒ボク台地土壌)で調査を行う予定である。 さらに,最終年度である本年度は,水田地区における有機態窒素の移動性について明らかにする。上記の水田地区に水文観測機器を設置し,高頻度の水・土壌分析を実施し,窒素画分の濃度の経時変化や物質収支などから窒素動態を明らかにする。安定同位体を用いた動態把握については,トレーサーが高額であるため,研究予算内で実施できない可能性がある。上記の培養試験の結果や数値モデルの利用によって,考察を補いたいと考えている。一方で,異動した所属機関の研究設備では,微生物解析が可能であるため,有機態窒素の分解について生物的な側面からの解析を新たに追加する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
年度末に購入を予定していた薬品が在庫不足により,年度内の納品ができなかったため。 有機態窒素の化学分析を行うための化学薬品の購入に使用する。
|