研究課題/領域番号 |
24780232
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹内 潤一郎 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20362428)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 撥水性土壌 / ぬれ性 / 透水係数 / 水分保持特性 / 間隙ネットワークモデル / 接触角 / パーコレーション |
研究概要 |
実験に関しては,当初の計画通り,単一粒径のガラスビーズ(0.1mm,0.2mm,0.4mm,0.6mm)を用いて,OTS(Octadecytrichlorosilane)で表面処理を行ったものと未処理のものの混合割合を変えて,ぬれ性指標(水滴浸入時間,見かけの接触角,水浸入圧)と水理学的特性(水分保持特性,飽和透水係数)の測定を行った.見かけの接触角では,混合率25%と50%の間で親水性から疎水性へと変化しており,これは混合率が50%をこえると自発的な浸水が発生しなかった水分保持特性(浸潤過程)の結果とも一致していた. モデル化に関しては,計画では静的モデルであるセルオートマトンモデルの開発を行い,動的なモデルの開発は平成25年度以降に行うことになっていたが,計画を前倒しして,以下のマクロからミクロの3つの異なるスケールのモデルについて検討を行った.マクロスケールとして,REV(Representative Element Volume)で平均化したRichards式をベースにし,気-液2相状態で移動する際に生じる間隙内の水面にかかる力の不均衡状態をあらわす動的毛管圧を考慮に入れた動的モデルを用いて,撥水性多孔質媒体における鉛直一次元のフィンガー流の再現を行った.間隙スケールのモデルとして,セルオートマトンモデルやネットワークモデル,毛管束モデル(これらは静的モデル)を用いて,混合多孔質媒体の透水係数や水分保持特性の再現を行った.ミクロスケールのモデルとして,間隙内の水の流れや界面の形状を計算するために,粒子法の一種であるMPS(Moving Particle Semi-implicit)法を採用して,粒子間ポテンシャル法を用いて表面張力や壁面のぬれ性を考慮した動的モデルの開発を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験に関しては,概要で述べたように,混合割合を変化させた単一粒径のガラスビーズの3種類のぬれ性と2種類の水理学的特性の測定を計画通り行った.間隙内の浸潤前線の移動をハイスピードマイクロスコープで観察することを計画していたが,デモ機を用いて試行した結果,間隙内の水面の移動の速度が予想以上に速く,その様子を高解像度で得ることが困難であったため,静止状態の水面の観測を行うことにし,平成25年度に実施することとした. モデルに関しては,当初は静的モデルとしてセルオートマトンモデルやネットワークモデルのような離散モデルを,動的モデルとしてRichards式に基づいた物理モデルを扱うことを考えていたが,研究を進めるうちに,離散モデルにはパーコレーション理論やネットワーク理論の適用が可能であり,動的モデルには間隙内の流れを直接計算する粒子法を用いることが可能であると考えるようになった.そこで,概要で述べたような様々なモデルを検討することとした.セルオートマトンモデルやネットワークモデル,毛管束モデルでは,水理特性の再現に関しておおむね良好な結果が得られており,さらにパーコレーション理論やネットワーク理論を適用していく予定である.粒子法を用いた計算では,その計算アルゴリズムの特徴から,静止状態の圧力分布(静水圧状態)を再現できないことから,静止状態の再現が困難であることが判明したため,アルゴリズムの改良や平均化等を行う必要があると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
実験に関して,平成24年度は単一粒径のガラスビーズの,表面処理をしたものと未処理のものの混合割合を変えた場合のぬれ性や水理特性の変化を調べたのに対して,平成25年度は異なる粒径のガラスビーズを混合したものを用いて,同様の物理特性を調べる.これは,ある特性値を実現するのに,土壌の細粒成分と粗流成分のどちらを処理すればよいのか,あるいは,必要となる化学物質の量を少なくできるのかといったことにつながる.また,異なる粒径の粒子が混ざることにより,間隙構造も複雑化し,間隙モデルの毛管の直径などのパラメータにも影響を与えることが考えられる.実験自体は,これまで蓄積してきたノウハウを用いることができるので,問題なく実施できると思われる. 概要や達成度において述べてきたように,多孔質媒体内の不飽和浸透流に関するモデル化には,平均化したREVスケールの特性を用いたRichards式のような物理モデルに基づいたものから,間隙スケールのネットワークを対象としたものや,間隙内の流れに関してNavier-Stokes方程式を直接計算するものまで様々なものが存在しており,それぞれの手法には長所・短所がある.例えば,Richards式を用いたモデルの場合,計算手法も確立されておりモデル化も容易であるが,計算格子における要素あるいは節点において平均化した物理量を用いているという点において,ここで考えているような粒子表面の接触角の違いによって生じる媒体の不均一性を表すことができない.ここでは間隙スケールのネットワークモデルを中心に据え,モデル化を行っていく.このモデルはパーコレーション理論やネットワーク理論による理論的拡張が可能であると考えられ,ランダムウォークを用いた溶質輸送への適用も期待される.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に計画している実験に必要な材料として,粒径0.1,0.2,0.4,0.6mmのガラスビーズを各25kg(総額15万円程度)とその輸送費,実験機器の消耗品,実験補助に対する謝金について10万円程度見込んでいる.また,本年度は簡易接触角計(50万円程度)を導入する. モデル化に関する論文の別刷りや書籍,学内のメディアセンターの大型計算機使用料として20万円程度見込んでいる.また,国内外の学会への参加費用・旅費に関して25万円程度,論文出版のための費用として15万円程度必要となる.
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