研究課題/領域番号 |
24780232
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹内 潤一郎 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20362428)
|
キーワード | 撥水性土壌 / ぬれ性 / 透水係数 / 水分保持特性 / 間隙ネットワークモデル / 接触角 / パーコレーション |
研究概要 |
平成24年度は単一粒径(0.1mm,0.2mm,0.4mm,0.6mm)のガラスビーズをOTSで疎水化したものと未処理の親水性ものを様々な割合で混合したものを試料として,その水理特性(水分保持特性と透水性)とぬれ性(見かけの接触角,水滴浸入時間,水浸入時間)の測定を行ったのに対し,平成25年度は粒径の異なる粒子を小粒径と大粒径が1:3の質量割合で混合したものを試料として,上記の水理特性とぬれ性の測定を行った.また,本年度は接触角計を導入したことにより,接触角のより精密な測定が可能になっただけでなく,マイクロスコープにより,水滴の界面とガラスビーズの表面が観測できるようになった.これにより,粒子間の間隙に水が浸入や保持されるときには,水-粒子間の接触角や水-空気界面の曲率が非常に重要な役割を果たしていることが示唆されたため,接触角と界面の曲率を考慮した見かけの接触角に関するモデル化や毛管束モデルの開発を試みた. 昨年から取り組んでいるモデル化に関して,ある一定の粒子の集まりを均一なクラスタ(セル)と見なしたセルオートマトンモデルは,一定の成果はあったものの,混合多孔質媒体のモデル化には限界があることが判明したため,間隙をネットワークとしてモデル化した間隙ネットワークモデルによる解析を進めることとした.本年度は粒子が単純立方格子型に充填されていると仮定した立方格子型のネットワークを用い,浸透パーコレーションに関するシミュレーションや,透水係数に関する解析を行った.浸透パーコレーションからは,立方格子型の間隙ネットワークの場合,疎水性粒子の混合割合がおよそ75%より小さいとき浸透が開始するという結果になった.また,透水係数に関して,疎水性粒子に囲まれた間隙を水を通さない間隙とし,不飽和状態の透水係数の推定を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験に関しては,計画通り,粒径の異なるガラスビーズを用いて疎水性粒子と親水性粒子から構成される多孔質媒体の水理特性とぬれ性の測定を行った.異なる粒径の粒子の混合割合は,間隙率が最小になるように文献を参考して,小粒径と大粒径の粒子を1:3の質量割合で混合した.粒径の差が2から3倍程度のものは,均一に混合した試料を作成できたが,4倍を超えるものは,大粒子の間隙の間を小粒子が(砂時計のように)落下して,均一な混合試料を作成することができなかった.そのため,平成26年度に粒径の差が大きいものについて,混合比を変更して一部再実験を行う予定である. モデルの開発に関しては,接触角計による水滴の界面と粒子の観察により,界面の曲率と接触角が,疎水性粒子を含む多孔質媒体への水の浸透現象に非常に大きな役割を果たしていることが推測されたため,その幾何学的な関係を考慮した見かけの接触角を推定するモデルの開発を行い,さらにその知見を活用した毛管束モデルを作成することとした.このモデルにより,水の圧力応じて粒子間のすき間に水が浸入する様子を再現できた.しかし,毛管束モデルをネットワークとしてとらえると,毛管束モデルは1次元格子といえる.パーコレーション理論からは水の浸透はネットワークの次数(分合流点における毛管の数)に影響を受けることが知られており,1次元格子は次数2のネットワークであり,平均次数が4から5程度である実際の多孔質媒体をモデル化するには不十分といえる.そこで,ネットワークモデルへこの界面と粒子の幾何学的な関係を拡張していく必要がある.一方,これとは別に開発を行ってきたネットワークモデルは,モデル化が容易な立方格子型のネットワークにおいて,疎水性粒子が透水性や水の浸透に与える影響や,毛管の断面形,異方性,格子サイズ,循環境界について検証を行っている.
|
今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」において述べたように,粒径の差が大きい混合試料において,均一に混合できなかったことは想定外であったが,これは農学的に非常に興味深い試料となっている.すなわち,小粒による小さな間隙と大粒子による大きな間隙の2種類の間隙が混在した構造となっており,作物の栽培に適した水はけがよく(透水性が高く),水持ちがよい(水分が保持されやすい)媒体となる可能性がある.本研究の社会的な意義として,疎水性粒子を土壌改良材として使用することを挙げているが,まさにその一例である. 本年度は,間隙の大小やつながり具合を適切にモデル化するために,個別要素法(DEM)を用いて,粒子充填のシミュレーションを行い,得られた粒子配置から間隙構造の抽出を行うことを予定している.DEMの利用により,単一粒径だけでなく様々な粒径粒子の充填や,締め固め具合の異なる媒体のモデル化が可能となる.抽出された間隙ネットワークに対して,これまで開発を行ってきた浸透パーコレーションや管水路ネットワーク流れ,界面と粒子の幾何学的関係を適用して,多孔質媒体の水理特性の推定モデルの確立を目指す. また,本年度はこれまでの混合試料の物理特性の測定に加え,疎水性粒子を含む不均一な鉛直2次元領域を作成し,浸透流実験を行う.非吸着性のトレーサーの移動を経時的に観測することにより,疎水性粒子が与える不均一性の影響を評価するとともに,開発したネットワークモデルに溶質の輸送モデルを組み込み,現象の再現を行う.
|
次年度の研究費の使用計画 |
試料の水理特性の測定用のノートパソコンの購入資金としておよそ15万円見込んでいたが,既存のノートパソコンを使用したため2013年度には購入しなかった.この測定は,開始から終了までおよそ1週間かかり,その間パソコンを接続してデータを観測・記録する必要がある.本測定を開始したのが,講義でノートパソコンを使用する必要のない後期の2014年の1月からであったため,普段講義等に使用していたノートパソコンを使用することができた.2014年度の前期からは講義でノートパソコンを使用するため,2014年度には新たにノートパソコンを購入する必要がある. 平成26年度に計画している実験に必要な材料として,ガラスビーズを20kg(10万円程度)とその輸送費,実験水槽の作成費,実験機器の消耗品,実験補助に対する謝金についてあわせて40万円程度見込んでいる.また,観測用にノートパソコン(15万円程度)を導入する.モデル化に関する論文の別刷りや書籍,学内のメディアセンターの大型計算機使用料として20万円程度見込んでいる.また,国内外の学会への参加費用・旅費に関して40万円程度,論文出版のための費用として20万円程度必要となる.
|