研究課題/領域番号 |
24780238
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
吉本 周平 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究所・資源循環工学研究領域, 研究員 (10435935)
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キーワード | 地下水 / 小島嶼 / 気候変動 / 環境同位体 / 硝酸性窒素 / 炭酸塩岩帯水層 / 涵養年代推定 / 六フッ化硫黄 |
研究概要 |
平成25年度は,平成24年度に引き続き,沖縄県の多良間島とマーシャル諸島共和国のマジュロ環礁を調査地区として,既設の観測用ボーリング孔や農家井戸などで採水調査を実施し,試料を持ち帰って主要イオン濃度を測定して硝酸性窒素濃度や塩淡境界の分布を調べるとともに,微量ガス(フロン類,六フッ化硫黄)濃度や硝酸イオンの窒素酸素安定同位体比を測定して地下水流動や脱窒の状況を調査した. 多良間島では,主要イオン組成が一般的な炭酸塩岩帯水層における涵養水と海水の間に分布し,帯水層中での涵養水と海水の混合を示しているとみられた.六フッ化硫黄濃度から推定される地下水涵養年代は,浅層で縁辺部の地下水ほど若い地下水である傾向が示された.硝酸性窒素濃度は,島内で面的に行われているサトウキビ栽培や肉牛の飼育による窒素負荷を反映して殆どの地下水試料で検出され,地表の窒素負荷を受けた涵養水が塩淡境界付近まで到達していることが示された. また,マジュロ環礁のローラ島では,集約的な作物栽培や畜産が行われている区画の周辺などでスポット的に高濃度の地下水硝酸性窒素がみられることや,比較的浅層の地下水で硝酸性窒素が検出されることから,地表の窒素負荷が溶解した浸透水は地下水面に到達すると淡水レンズ全体には混合せずに,比較的表層を流動していることが推察された.一方,塩淡境界付近の比較的深層の地下水については,淡水と海水の混合だけでは説明できないMg/Ca比の増加が見られることや,六フッ化硫黄濃度から推定される地下水滞留時間が浅層に比べて10-20年ほど長いこと,窒素酸素安定同位体比の測定結果から深層ほど脱窒の程度が大きいと推察されることから,ローラ島の淡水レンズ地下水は深層で流動性が低く,長期間に亘って滞留している可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は,当初の計画どおり,多良間島とマジュロ環礁を調査地区として採水調査を実施し,主要イオン濃度,微量ガス濃度を測定した.また,これらの結果を取り纏め,地下水流動および物質輸送の状況の検討を開始し,一部は国内外の学会において口頭で発表した.よって,本研究はおおむね順調に進捗しているものと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究については,当初の計画に従い実施するが,過年度の結果を踏まえて研究結果を取り纏めて淡水レンズ中の地下水流動と物質輸送の実態を解明するために,地下水中の微量ガス濃度や窒素酸素安定同位体比を引き続き分析するとともに,帯水層を構成する炭酸塩中のMg/Ca比の分析を加えて,結果を検討する. 具体的には,調査地区に設置されている観測用ボーリング孔および農家井戸を対象とした補足的な採水調査を実施する.調査地区は,過年度と同様に沖縄県の多良間島とマーシャル諸島共和国のマジュロ環礁とする.多良間島では,硝酸イオンの窒素酸素安定同位体比を測定して脱窒による影響を調べるとともに,地下水位および電気伝導度の分布や経時変化や土地利用の分布,ボーリング柱状図などの情報を統合して,多孔質な帯水層における地下水の挙動を検討する.マーシャル諸島では,これまでの測定結果を取り纏めるとともに,帯水層を構成する砂礫中のMg/Ca比を測定して,帯水層を構成する地質の性状の違いが淡水レンズ中の地下水流動や水質に与える影響を検討する.このように,不均一な石灰岩帯水層に存在する淡水レンズにおける地下水流動や物質輸送のメカニズムの解明を目指す.
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