平成26年度は,沖縄県多良間島を対象として,既設の観測用ボーリング孔や農家井戸などから採取した地下水試料の溶存イオン濃度,六フッ化硫黄,フロン類,硝酸イオンの窒素酸素安定同位体比,ラドン濃度を測定して,石灰岩帯水層における地下水流動の指標としての適用性を検討した.また、多良間島とマーシャル諸島共和国マジュロ環礁でのこれまでの調査結果をとりまとめて、不均一な石灰岩帯水層に存在する淡水レンズにおける地下水流動や物質輸送のメカニズムを検討した。 多良間島では,主要イオン組成が一般的な炭酸塩岩帯水層における涵養水と海水の間に分布し,帯水層中での涵養水と海水の混合を示しているとみられた.六フッ化硫黄濃度は,中心部で低く,周縁部で高い傾向にあった.また,同一の観測孔では,水面直下の濃度が相対的に高かった.これらの結果から,島の周縁部の浅層で相対的に最近の年代に涵養されたといえるものの,複数の(あるいは連続する)年代に涵養された地下水の混合であることが推察された.一方,表層地下水中のラドン濃度は,島の中心部および周縁部の一部で比較的高く不均一であった.また,硝酸イオンの窒素酸素安定同位体比は,島の北側で相対的に大きかった.ラドン濃度については洞窟分布や成因となる生物種の違いが,窒素酸素安定同位体比については地上での窒素負荷源の状況や脱窒の有無がそれぞれ関係することから,これらの空間的な不均一性を多角度的に考慮することで地下水流動の状況を解明することが期待される. 一方,マジュロ環礁ローラ島では,地下水面に到達した浸透水は淡水レンズ全体には混合せずに,比較的表層を流動していることが推察された.このように,炭酸塩岩帯水層の淡水レンズにおける地下水の挙動は,帯水層の水理地質性状によって異なるものと考えられる.
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