本申請課題の目的はネットワーク分析を用いた全く新しいアプローチにより,環境ストレス下におけるトマトの高品質安定生産に向けた環境調節技術の基盤技術を得ることである.これまでに,ストレス指標としてクロロフィルa蛍光誘導期現象が利用できること,塩ストレス下の果実内成分の相互作用の可視化にネットワーク分析が利用できることを明らかにした.本年度は,これまで行った結果から作成したネットワークにおいて,1)塩ストレスがストレス指標と果実品質構成要素間のネットワーク構造に及ぼす影響を明らかにする,2)果実品質とつながりの多いストレス指標を抽出し,ストレス指標から果実品質の変化を予測できるかどうか検討することを目的とした.1)においては,昨年度までに得られた実験結果を元に,糖,有機酸などの食味成分とアスコルビン酸,ポリフェノール,抗酸化活性などの機能性との相関ネットワークの品種間差異について明らかにした論文を取りまとめ国際学術誌で発表した.2)においては,いくつかのクロロフィルa蛍光誘導期現象に関するパラメーターならびに葉の水ポテンシャルとつながりの多い果実内成分を見いだすことができた.このことから,クロロフィルa蛍光誘導期現象に関するパラメーターを指標とすることによって塩ストレスによってどのような成分の変動が生じ,どのような変化(増加あるいは減少)が生じるかを簡易的に推測することができることを明らかにした.これらのことから環境ストレス下のトマトにおける高品質安定生産に向けたネットワーク分析の応用について一つの可能性を提案することができた.今後は本申請課題で得られた知見を実際の栽培圃場下において活用するために,より多くの栽培環境下で実験を行いネットワーク分析の有効性について確認する必要がある.
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