最終年度は,コムギ,玄ソバ (果皮+子実),ソバ (子実のみ),玄米の4種類の穀物について,高速判別の実現可能性を評価した。ポリクロメータ型の高速近赤外分光計を用いて,穀物ごとに150粒の近赤外スペクトルを測定した。得られた近赤外スペクトルには,水分,脂質,およびたん白質の含有量の差異が反映されており,また,玄ソバについては果皮の黒色成分に由来する電子遷移吸収バンドが短波長領域に観測された。また,粒子径や組織密度といった物理的要因の差異に起因するベースライン変動も同時に観測された。 含有成分の差異を強調しつつ,物理的要因の差異の影響を低減するためのスペクトル前処理を行い,主成分分析を基礎とする判別分析法を適用した。主成分分析を適用することにより,スペクトル変動を化学成分の差異を反映している変動パターンとノイズ信号による変動パターンに分離し,このうち前者を用いて判別モデルの評価を行った。 評価用のスペクトルデータは,10 mm/sの速度で移動する穀物について,測定条件として1回積算と10回積算したものを用いた。いずれの測定条件でも測定時間はミリ秒単位であった。評価の結果,コムギと玄米については互いに誤判別されるケースが僅かに認められたものの,アレルギー性を示す玄ソバおよびソバについては判別率100%であった。 研究機関全体を通じて、1) 近赤外分光法を用いた化学成分に基づく穀物の判別が可能であること、2) 判別の基準となる化学成分が穀物表層側に分布すること、3) 主成分分析法に基づいた高精度かつ高速な判別が可能であることを明らかにした。
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