研究課題/領域番号 |
24780256
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小笠原 英毅 北里大学, 獣医学部, 助教 (30535472)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 畜産学 / 組織・細胞 / 自給粗飼料 / 放牧 / 日本短角種 / 筋線維型 |
研究概要 |
本研究は放牧・自給粗飼料給与による牛肉の持続的生産の確立と向上を目指し、日本短角種の初期成長期における共役リノール酸(CLA)の骨格筋細胞での作用機序を明らかにする。また、放牧により増加するCLAが哺乳期の骨格筋細胞におけるミオスタチンおよびIL-6発現に対する作用機序を明らかにし、放牧・自給粗飼料による赤肉生産の学術的基盤を構築することを目的とする。本研究の基礎的情報の集積のため、24年度は放牧地分娩で出生した日本短角種の採食量、哺乳量、増体および血液性状(T-CHO、NEFA、TG)を解析した。また、6ヶ月間の哺乳期終了時の骨格筋量と内臓重量の測定、筋線維型(I型、ID型、IIA型、IIB型)構成ならびに内臓組織の組織学的解析を行った。 試験供試牛の日増体量は慣行飼養の黒毛和種より顕著に高く、血中T-CHO濃度に高い傾向があり、離乳後に著しく減少した。また、3ヶ月齢以降のロールおよびグラスサイレージの総採食量は乾物摂取量で2.7±0.7kg以上、哺乳量は出生直後から6ヶ月齢まで6.0±0.5L/日以上であった。複胃重量の構成割合は第1胃が約60%であり、第1胃乳頭突起の発達も観察され、エネルギー源を乳に依存している哺乳期でも粗飼料を十分に摂取していることで、離乳後の粗飼料摂取にすぐに適応可能であることが示唆された。一方、哺乳6ヶ月終了後の筋組織重量の体重に対する構成割合は成体の体重に対する構成割合に大きな差はなく、最長筋、腹鋸筋、大腿二頭筋、半膜様筋の筋線維型構成割合は成体と比較して有意な差は観察されなかった。しかしながら、腹鋸筋において脂肪酸代謝を主とするI型およびID筋線維の構成割合が他の骨格筋より顕著に高かった。また、抗IL-6抗体を用いた免疫組織化学的染色を行ったところ、IL-6は筋線維型非依存的に発現し、筋線維型移行および筋肥大に関わる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の具体的目的である哺乳期の日本短角種骨格筋組織におけるミオスタチンレセプター(ActRIIB)、IL-6および受容体の詳細な発現解析は行っていない。しかしながら、放牧地分娩生まれの日本短角種の増体成績や採食量、哺乳量を解析し、自然哺乳のみで十分な増体を得ることが明らかとなった。また、乳に依存する期間が長期化しても、第1胃乳頭突起が発達していることより、離乳後の粗飼料利用にも適応できることも明らかとなった。試験牛の筋組織のサンプリングは終了しており、筋組織においては筋線維型構成割合を算出している。また、舎飼い期生まれの本短角種も同様の試験予定であり、現在進行中である(平成25年度6月初旬に終了予定)。両者を比較・検討することで自給粗飼料給与のみの肉牛生産方式、特に初期成長期の特性が明らかになる。さらに24年度は哺乳期と肥育後期の筋線維型構成割合を比較するため、放牧区と強制舎飼い区を設置し、放牧(運動負荷)が筋線維型構成割合に与える影響も調査した。その結果、哺乳期と肥育後期では各骨格筋の筋線維型構成割合に大きな違いがないが、両成長ステージでも脂肪酸代謝が主となるIおよびID型筋線維の構成割合が慣行牛と比較して増加することが明らかとなり、この傾向は放牧区のほうが顕著であった。試薬などは準備しており、予算の都合上、舎飼い期生まれの牛のサンプリング後、まとめてActRII、IL-6および受容体の発現解析を行う。また、現在、培養室を改築中であり、筋芽細胞の採取を行っていないが、25年度8月中に完成予定のため、その後培養筋芽細胞の採取、解析を行う。本研究での採材はほぼ終了しており、詳細な解析を行うのみであることから(2)の評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究において、放牧など自給粗飼料で生産される哺乳期の日本短角種の特性(放牧地分娩出生時)が明らかとなった。しかしながら、骨格筋組織におけるミオスタチンレセプター(ActRIIB)、IL-6および受容体の詳細な発現解析までには至っておらず、放牧で増加する共役リノール酸(CLA)がミオスタチンとIL-6の発現様式に与える影響も未解明である。したがって、25年年度に以下の実験を行う。 1.採取した筋組織におけるActRIIRとIL-6のmRNAとタンパク質発現解析、2.各筋線維型におけるIL-6の発現様式の詳細な解析、3.培養筋芽細胞の作製とCLA添加によるActRIIRとIL-6のmRNA発現変動 上記、1および2は肥育後期の筋組織でも同様に解析し、初期成長期の骨化筋組織での発現様式と比較・検討する。分析するサンプルは採取済であり、培養筋芽細胞は作製経験があることから、本研究は問題なく遂行可能である。 以上より、赤肉生産過程におけるCLAのミオスタチンとIL-6の産生制御機構が明らかとなる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
採取した筋組織におけるActRIIRとIL-6のmRNAとタンパク質発現解析については免疫組織化学的染色および分子生物学的手法を用いるため、遺伝子発現解析用および抗体などの試薬の購入、各筋線維型におけるIL-6の発現様式の詳細な解析については酵素化学的染色を用いるため、各種酵素の購入、培養筋芽細胞の作製とCLA添加によるActRIIRとIL-6のmRNA発現変動については刺激物質である共役リノール酸の購入、培養器具および消耗品である培地、プラスチック用品の購入、筋分化関連遺伝子のプライマー購入に使用する。
|