本研究は放牧・自給粗飼料給与による牛肉の持続的生産(自給粗飼料産肉システム)の確立と向上を目指し、日本短角種の初期成長期における共役リノール酸(CLA)の骨格筋細胞での作用機序を明らかにする。また、放牧により増加するCLAが哺乳期の骨格筋細胞におけるミオスタチンおよびIL-6発現に対する作用機序を明らかにし、放牧・自給粗飼料による赤肉生産の学術的基盤を構築することを目的とした。 哺乳期の日本短角種の基礎的情報を得るために、採食量および哺乳量の解析を行い、両品種は十分量の粗飼料を採食し、栄養学的および健康性維持においても十分な成分を含む母乳を摂取していることが明確となった。 自給粗飼料産肉システムにおける産肉性を明らかにするため、出生時期の異なる日本短角種(放牧生vs舎飼生)の骨格筋組織を59種類に分類し、代表的な16種類の骨格筋で筋線維型構成割合とmyostatinおよびIL-6の遺伝子発現解析を試みた。放牧生において三角筋と腹鋸筋で脂肪酸代謝を主とする筋線維型であるI型、ID型筋線維の発現割合が高かった。また、ID型筋線維を発現する筋線維には筋線維内に脂肪滴が蓄積されることが明らかとなり、myostatinとIL-6は全ての骨格筋で発現が認められたが、両区および各骨格筋においての発現の差異については詳細な解析には至らず、今後の検討課題である。また、10ヶ月齢の日本短角種の最長筋から採取した組織片から、筋芽細胞培養系を確立し、筋管細胞に分化することを確認され、本研究より、自給粗飼料産肉システムにおける基礎的知見が集積され、放牧により増加するCLAが哺乳期の初期成長を助長し、脂肪酸代謝を主とする筋線維型を増加させる可能性が示唆された。
|