研究課題/領域番号 |
24780259
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
鈴木 武人 麻布大学, 獣医学部, 講師 (90532052)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 肝障害 / IGF-1 / 乳牛 |
研究概要 |
乳牛(ホルスタイン種)において、分娩予定日20日前より分娩日までRhizopus oryzae水抽出物を10g/頭/日の用量で飼料にトップドレス給与した牛群(n=8)は、対照群に対し分娩日~分娩8週後まで血中IGF-1値が高い傾向を示し、分娩日、2,4,8週後では有意に増加した。さらに血中NEFA濃度は分娩日で給与群が対照群に対し有意に低下し、その後も分娩後4~6週で対照群に対し低い値を示す傾向にあった。分娩後の初回発情までの日数は、給与群43.0±33.1日 (n=6)、対照群63.0±35.0日 (n=5)、受胎率は給与群66.7% (6頭中4頭受胎)、対照群40.0% (5頭中2頭受胎)であった。IGF-1は肝臓から分泌され卵胞の成長を調整する因子で、IGF-1が高泌乳牛群の分娩後の卵巣機能再開のサインとなることが報告されている。給与群では血中IGF-1濃度が対照群に対して有意に増加し、繁殖成績においても分娩後早期に初回発情が現れ、受胎率も高い傾向にあった。これは、R. oryzae水抽出物が肝機能改善的に作用し、IGF-1の分泌が促進され、繁殖成績の向上に繋がったものと予測された。また、R. oryzae水抽出物給与により血中NEFA濃度も分娩後の上昇が抑制され、エネルギーバランスの改善が示唆された。これは、IGF-1同様、RUの肝機能改善的な作用により肝臓での脂質代謝が改善された結果と考えられた。 肝障害モデルラットにおいて、R. oryzae水抽出物投与により肝臓のSTAT3遺伝子のmRNA発現量が対照群に対し有意に増加し、Akt遺伝子のmRNA発現量も増加傾向にあったことから、これらの作用により肝細胞への脂肪蓄積が抑制されたものと考えられた。 これらを総合するとR. oryzae水抽出物は肝細胞の再生だけでなく、脂質代謝に影響を与える可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、大きく乳牛の血液サンプルの解析、肝障害モデルラットでの遺伝子解析の二つに研究内容が分かれる。両者を同時進行することで、得られたデータをお互いにフィードバックし、それぞれの結果を検討することで、効率的な実験の遂行が可能となり、研究目的あるいは実施計画に沿って順調に進展することができた。
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今後の研究の推進方策 |
肝障害モデルラットを用いて、脂肪沈着に関与するSREBP-1、アポトーシスに関与するBad,Bid 等について遺伝子レベルでその発現を解析する。また、NF-κB によって転写促進を受けるサイクリンD など細胞増殖に関与する遺伝子についても解析する。前年度解析予定の細胞内シグナル経路、および本年度解析予定の細胞内分子はクロストークする部分も多く、活性化には遺伝子レベルの発現促進だけでなく、タンパク質のリン酸化による機能制御やアンチセンスRNA などによる調節も見られ、その複雑さが解析を困難にする可能性がある。それを回避するために、タンパク質の発現状況からもシグナル解析を行い、必要に応じてタンパク質の修飾についても解析を加える予定であったが、交付予定額の減額に伴い、遺伝子発現解析を中心に行う。 同様の肝障害モデルラットを用い、肝障害誘発後にR. oryzae 水抽出物を投与することで、治療的効果が発揮されるか否かを検討する。四塩化炭素の経口投与によりラットに肝障害を誘発し、その直後からR. oryzae 水抽出物を1時間後から24 時間後にかけて5 回投与する。そのラットを同様の手法により解析し、治療的効果を検討する。予防的効果ではR. oryzae 水抽出物の投与期間が10 日間あることから蓄積効果が考えられるが、本計画では投与回数が制限されることから、R. oryzae 水抽出物の投与量にバリエーション持たせて、治療的効果の有効濃度についても検討する。これについても交付予定額の減額に伴い、投与量のバリエーションも最低限で実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
交付予定額の減額に伴い、ウシ血中のプロゲステロン測定を最低限のサンプルで行うこととしたため、平成24年度に8,677円の残額が生じた。この残額については、平成25年度の研究実施状況や予算執行状況を勘案し、追加のホルモン測定のための費用として使用する予定である。
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