研究課題/領域番号 |
24780266
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高橋 秀之 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60549872)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | なし |
研究概要 |
ミオスタチンのエネルギー代謝に及ぼす影響を明らかにするため、ミオスタチンを欠損した草原短角牛ならびにミオスタチンが発現している日本短角種牛の骨格筋を用いて、グルコース輸送担体であるGLUT1、GLUT4のmRNA発現、グルコース取り込みに関与するインスリン受容体mRNA発現ならびに脂肪酸輸送担体であるCD36、CPT-1 mRNA発現をリアルタイムPCR法により解析をした。その結果、ミオスタチン欠損した草原短角牛の骨格筋では、インスリン依存型グルコース輸送担体であるGLUT4mRNA発現が上昇していることが明らかとなった。また、脂質代謝については、血中の遊離脂肪酸濃度が草原短角牛で低いことが明らかとなった。しかしながら、骨格筋において脂肪酸を細部内に取り込むCD36mRNA発現においても減少が見られた。 次に、草原短角牛ならびに日本短角種牛骨格筋筋芽細胞を用いて、筋管への分化誘導後0時、24時ならびに72時間後に同様の遺伝子発現を解析した。その結果、草原短角牛筋芽細胞では、筋分化後72時間においてGLUT4mRNA発現が上昇することが明らかとなり、CD36mRNA発現は日本短角種牛よりも低下することが明らかとなった。 一方で、インスリン受容体、GLUT1mRNA発現は両種の間に差はなく、CPT-1mRNA発現に関しては、骨格筋組織では、草原短角種牛が高く、筋芽細胞では低いといった、組織と細胞の間で同様の傾向は見られなかった。 以上のことより、ミオスタチンはGLUT4発現を介してグルコース代謝を亢進することが考えられ、さらにその作用はインスリン感受性を上昇させることにより行われる可能性が示唆された。これらの結果は、筋組織におけるミオスタチン作用の新たな知見を構築し、ミオスタチンの骨格筋細胞レベルにおけるエネルギー代謝特性を明らかにする知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において、骨格筋組織ならびに骨格筋筋芽細胞においてのグルコース代謝関連遺伝子発現および脂肪酸代謝関連遺伝子発現の解析が終了している。これらの研究結果から、ミオスタチンのエネルギー代謝作用のうち、ミオスタチンが、インスリン感受性のグルコース取り込みに関与することが示唆されている。しかしながら、ミオスタチンを欠損した草原短角牛におけるGLUT4mRNA発現の上昇がミオスタチンの作用であることは明らかにすることはできなかった。 筋組織において免疫組織科学的手法ならびにwestern blot法を用いてGLUT4のタンパク発現解析を試みた。しかしながら、免疫染色法ではGLUT4タンパク発現は明らかとならなかった。また、wstern blot法においても非特異のバンドが多数検出され、ミオスタチン欠損におけるGLUT4タンパク発現の増減は明らかとならなかった。これは、ウシGLUT4の抗体に問題があると考えられる。 以上より、ミオスタチンは、グルコース代謝に関与することが示唆されたが、タンパク発現の解析までには至らなかったことから、現在までの達成度は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
日本短角種牛ならびに草原短角牛由来の筋芽細胞培養系において、ELISA法を用いて GLUTトランスポーターを利用して細胞へ取り込まれるグルコースアナログである2-Deoxy-D-[1,2-3H]glucoseを添加し、分化誘導後72時間における糖取り込み能を測定する。 また、ミオスタチン(100ng/ml)を添加したときのGLUT4ならびにGLUT1発現をreal-time PCR法を用いて解析する。さらに、同様の実験系でミオスタチン添加時に2-Deoxy-D-[1,2-3H]glucoseを添加し、ミオスタチンの糖取り込み能に及ぼす影響を明らかにする。これにより、ミオスタチンがインスリン依存性糖輸送担体であるGLUT4 発現ならびに取り込まれた栄養素の利用制御への関与を検討する。 日本短角種牛ならびに草原短角牛由来の筋芽細胞培養系にミオスタチン(100ng/ml)、インスリン(100nM)を添加し、インスリンシグナルの伝達系ならびにエネルギー代謝に対するミオスタチンシグナル作用を解析する。ミオスタチンのシグナル伝達系に対するATP産生に対する効果を解析し、糖取り込み能ならびに脂肪酸利用に対するミオスタチンの影響を明らかにする。 さらに、ミオスタチンの作用が直接GLUT4発現に影響を及ぼすかを検討するために、GLUT4の転写因子であるMEF2c発現を同様の実験法を用いて解析することにより、ミオスタチンのGLUT4発現調節機構を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費使用計画は、筋芽細胞培養に使用する試薬ならびに器具(フラスコ等)を購入する予定である。また、遺伝子発現解析に使用する試薬についても購入する。 当該研究費が生じた理由については、申請時には国際学会への出席を予定していたが、データの蓄積が不足していたため、出席することが出来なかった。また、投稿論文のための校閲への使用が少なかったために研究費が生じてしまった。25年度以降に請求する研究費の使用計画としては、まず、研究成果が蓄積されるので、国際学会ならびに国内学会への研究成果報告を増やす計画である。さらに、現在、海外雑誌への投稿を計画しているため、投稿費用や校閲費用が必要である。また、研究を遂行する上で、血中インスリン濃度の解析が必要となった。そこで、申請研究のほかに、ユーロピウムを用いた血中インスリン濃度の測定法を立ち上げ、迅速に血中成分を測定するための試薬、器具(プレート等)を購入する。
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