研究課題
体細胞クローン雄牛(9頭)およびコントロールの非クローン雄牛(8頭、いずれも黒毛和牛)から末梢血および精子DNAを回収し、DNAメチル化解析を行った。最終年度は、新たに全能性に関与するOCT3/4、NANOG遺伝子、またメスのX染色体不活化に関与するXIST遺伝子のメチル化をbisulfite sequence法により解析した。その結果、OCT3/4遺伝子はクローン牛・非クローン牛とも末梢血では平均75%のメチル化レベルであったものが、精子では5%以下の低メチル化状態にあった。NANOG遺伝子も同様に、末梢血では平均80%メチル化であるが精子では平均20%のメチル化レベルにあり、クローン牛・非クローン牛間に差はなかった。OCT3/4やNANOG遺伝子産物は、ノックアウトマウス等の実験から、哺乳類の初期発生に必須の役割を果たす事が明らかになっており、受精後すぐに発現する必要のあるこれら全能性に関与する遺伝子が、精子形成過程ですでに脱メチル化されているという知見を得る事ができた。X染色体不活化に関与するXIST遺伝子は、これまでの報告通りオスの末梢血では高度にメチル化されていた一方、精子ではほとんどメチル化が解除されている。体細胞クローン動物ではX染色体不活化に異常があり、マウスではその異常を抑制する事によるクローンマウスの作成率向上が報告されている。しかし、今回解析したかぎりでは、XIST遺伝子のメチル化程度にクローン牛と非クローン牛とで差は認められなかった。本研究課題の結果から、体細胞クローン牛の精子・卵子において、非クローン牛と比較してDNAメチル化の異常は検出されず、体細胞クローン牛の後代における健全性に寄与する成果を得る事ができた。
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