研究課題/領域番号 |
24780276
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
作本 亮介 独立行政法人農業生物資源研究所, 動物生産生理機能研究ユニット, 主任研究員 (20343999)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ウシ / 妊娠 / 黄体 / 受胎率 / 生殖周期 / 子宮 |
研究概要 |
本研究では、哺乳動物の受胎率向上や生殖周期制御に向けた新規技術開発に資する基礎的知見を提供することを目的として、ウシの妊娠黄体ならびに非妊娠黄体間における遺伝子発現の違いを解析し、妊娠黄体に特異的な発現動態を示す生理活性物質の存在を明らかにするとともに、その機能の解明を試みた。 正常な発情周期を示すウシに人工授精した後、妊娠初期I(人工授精後20~30日)、妊娠初期II(40~50日)、妊娠中期(150-165日)にて倫理規定に従い屠殺し、妊娠黄体を採取した。また、対照として発情周期8-12日目の非妊娠黄体(周期性黄体)を採取した。哺乳動物の黄体機能調節に密接に関与すると考えられるプロジェステロンならびにプロスタグランジン(PG)関連物質を中心に解析を行った結果、妊娠黄体では腫瘍壊死因子 (TNF)、PGF2alpha受容体、PGE2合成酵素および細胞死誘導因子(FAS)の遺伝子発現ならびにタンパク質発現が周期性黄体と比較して有意に高いことが明らかとなった。一方、プロジェステロン受容体、黄体形成ホルモン受容体、PGF2alpha合成酵素、TNF受容体、細胞死阻害因子(cFLIP)、PGE受容体(EP1, EP2)発現には妊娠黄体と周期性黄体での発現差が認められなかった。さらに、黄体組織由来の抽出液が培養子宮内膜組織のPGF2alphaならびにPGE2分泌に及ぼす影響を調べた結果、妊娠中期の黄体抽出物を添加すると周期性黄体の抽出物を添加したときと比較して有意にPG分泌量が低くなることが示された。 これらの結果から、妊娠することで特異的にその発現が変化する黄体内生理活性物質の存在することが示され、ウシにおいて非妊娠黄体と妊娠黄体との間にはその構造だけでなく機能的な違いのあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画段階において、唯一の懸念材料であった実験に必要な妊娠牛の確保について、自家繁殖させた多くの供試牛に対して人工授精をすることが可能となったことから、研究遂行に必要な十分数の妊娠牛ひいては妊娠黄体を採取することができた。これにより、その後の遺伝子発現解析やタンパク質発現解析、組織培養系を用いた機能試験なども計画どおり実施することができたことから、本研究は当初予定通り順調な進捗状況にあると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究により、ウシの非妊娠黄体と妊娠黄体との間に機能的な違いがあることが示され、その一部はプロスタグランジン合成酵素やFAS等の発現動態の違いに起因することが示唆された。 平成25年度においては、これらの知見を踏まえ、妊娠黄体特異的に発現量の変化する生理活性物質をより網羅的、定量的に検索するとともに、血中での発現動態についても明らかにする。さらに、妊娠15日目という超早期の妊娠牛から黄体組織と血液サンプルを採取し、これら物質の発現量を測定することにより、超早期における不受胎診断の指標となり得る物質を同定する。このようにして得られた基礎的知見をベースとして、現場への応用が可能となる技術開発段階への移行を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究により、ウシの黄体で妊娠特異的に遺伝子発現の変化する物質を明らかにしてきた。しかし、そのうちのいくつかの物質に関してはタンパク質発現を検討するためのウシ用の特異的抗体や測定キットがなかったため、ヒト用の抗体や測定キット等を少量購入し、それらを用いて予備試験を行う必要があった。平成25年度においては、本年度に使用しなかった研究費と合わせて必要十分量の測定キットを購入し、本年度未測定のサンプルについて解析を行う。さらに、これらの測定結果を加えた研究結果をまとめ、次年度の研究費により学会発表や論文発表等の成果発表を行う予定である。 また、妊娠黄体や血液サンプル中に特異的に存在(あるいは不足)する複数の遺伝子群を同定するため、ウシ用にカスタムしたDNAマイクロアレイ解析ならびにリアルタイムPCRを実施する。さらに、ELISA(酵素免役測定)キット等を用いてタンパク質レベルでの発現の違いを検討するとともに、in situ ハイブリダイゼーション法および免疫組織化学染色法等を用いて細胞レベルでの物質の局在を明らかにする。次年度の研究費を用いてこれらの実験に必要な試薬・器具類の購入を計画している。
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