研究課題
平成25年度は、クローン胚において第一から第二分割期の染色体異常が産仔率に大きく影響していることに基づき、クローン胚と同様に産仔率が著しく低い凍結乾燥精子の顕微授精胚の発生停止原因をライブセルイメージングによって解析した。その結果、新鮮精子を用いた顕微授精胚では第一分割における染色体分配異常が7%であったのに対して、凍結乾燥精子の顕微授精胚では80%程度と非常に多いこと、また発生速度も凍結乾燥精子では遅れていることも明らかとなった。発生速度は人為的に卵子に活性化刺激を付与することにより改善されたが、染色体分配異常の発生率は改善が見られなかった。今後、サンプル数を増やして解析を行うとともに、受精後のメチル化状態変化についても解析を行う予定である。前年度クローン作出が可能なエピジェネティック修飾状態の異なる細胞として見出したマウス海馬由来の脳神経細胞から、初めてクローンマウス作出に成功した。今年度は海馬細胞のクローン作出の例数を増やした。さらに、小脳プルキンエ細胞で抑制的ヒストンメチル化が低いことを発見し、プルキンエ細胞を用いた核移植を試みた。その結果メスマウスプルキンエ細胞からクローンマウス作出に成功した。また、海馬細胞由来クローン胚、プルキンエ細胞由来クローン胚をそれぞれマイクロアレイ解析に供し、遺伝子発現解析を行い、セルトリ細胞、卵丘細胞由来クローン胚との比較を行った。その結果、オス海馬細胞由来クローン胚では、X染色体の不活化に関わるXist遺伝子の発現が、セルトリ細胞クローン胚と比べて低いことが明らかとなった。
3: やや遅れている
今年度は前年度の遅れの影響が多少残る形となり、クローン胚のイメージング解析が予定していたほど進まなかったため、やや遅れているという評価とした。また、年度途中で本研究の中心となるライブセルイメージングシステムのレーザー照射装置に不具合が生じたため、修理期間中ライブセルイメージング解析を行うことができなかったことも理由の一つである。しかしながらエピジェネティック修飾状態の異なる細胞からのクローン作出および解析、凍結乾燥精子顕微授精胚の解析を進めることにより、個体発生条件を検索するという本研究テーマにおいて有用なデータを出すことができている。
今後はクローン胚のライブセルイメージング解析を進めるとともに、胚移植実験、遺伝子発現解析も合わせて行っていく。さらに、初期発生過程で起きた異常がntES細胞の樹立成績や性質に与える影響を、イメージング解析後のクローン胚を用いて行っていく。この際、ntES細胞樹立率、核型、遺伝子発現、分化能検証さらにキメラ形成能を調べる。また、凍結乾燥精子顕微授精胚についても解析を進め、顕微授精胚、クローン胚に共通する個体発生に関わる要因を明らかにする。加えて最終年度であるため、これまでのデータをまとめて、論文執筆を行い国際誌に発表する予定である。
研究代表者の異動により、研究環境を新たにセットアップすることが必要となったため、前年度は繰越金が生じた。当該年度においては、研究施設のセットアップが完了しクローンマウス作成実験、細胞培養実験をすすめることが可能となった。しかしながら、年度途中に本計画の中心であるライブセルイメージングシステムに複数の不具合が生じ、修理に半年近くを要することとなってしまった。このため、ライブセルイメージングシステムを用いた実験に必要な消耗品等の購入が行えなかったことに加え、本システムを用いた実験結果を出すことができなかったため、学会発表および論文投稿に要する費用の使用もなかったことが、次年度使用額が生じた原因である。当該年度末にライブセルイメージングシステムの修理が完了したため、次年度の研究計画は円滑に遂行できるものと考えている。次年度はクローン胚のライブセルイメージング解析、胚移植実験およびntES細胞の樹立と解析を中心として行っていくため、卵子提供用マウス、ドナー細胞提供用マウス、レシピエントマウスに加えて、胚培養試薬、細胞培養用試薬が必要である。またマイクロアレイ解析や、染色用抗体、mRNA合成用試薬、加えて画像データ保存用ハードディスクが必要となる。これらの消耗品代を中心として、予定している国内学会および国際学会での発表のための旅費、また、論文投稿における英文校閲費なども必要であるため、次年度研究費はこれらに使用する予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Human Molecular Genetics
巻: 23 ページ: 992-1001
10.1093/hmg/ddt495
http://www.ccn.yamanashi.ac.jp/~twakayama/LSHP/index.html