通常、哺乳動物の雌は卵巣内で卵のみを、雄は精巣内で精子のみを産生するが、生後間もないMRL/MpJ(MRL)マウスの精巣では卵細胞が産生される。これまでの研究から、精巣内卵細胞は胎子期に一部の始原生殖細胞が、卵巣内卵細胞と同様に減数分裂に移行し、卵形成過程を進行することで産生されることがわかっている。 今年度はまず、胎子期の精巣内卵細胞のDNAメチル化状態が雄性あるいは雌性パターンのどちらを示すか検証した。胎齢18.5日のMRLマウスの生殖腺組織切片を用い、卵細胞マーカーであるNoboxならびにDNAメチル化酵素であるDnmt3a、あるいはメチル化シトシンである5MeCを免疫組織化学的に検出した。その結果、Nobox陰性の精細胞がDnmt3aならびに5MeC陽性を示したのに対し、Nobox陽性の精巣内卵細胞は卵巣内卵細胞同様、Dnmt3aならびに5MeCの双方に対し、陰性を示した。このことから、少なくとも胎子期の精巣内卵細胞は、雌性パターンのDNAメチル化状態を呈することが示唆された。 また、胎齢13.5ならびに16.5日のMRLマウス生殖腺について、胎子期卵細胞を検出する減数分裂マーカーであるSycp3、セルトリ細胞マーカーであるSox9、卵胞上皮細胞マーカーであるFoxl2を用いて多重染色を行ったところ、精巣内卵細胞が多く存在する精巣辺縁部では、Sox9陽性のセルトリ細胞の配列の乱れと異所性のFoxl2陽性卵胞上皮細胞の存在が認められた。このことから、精巣内卵細胞産生には、精細管の形成不全ならびに生殖腺体細胞の性転換が関与することが考えられた。
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