研究課題/領域番号 |
24780280
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
富岡 幸子 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (50374674)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | HIV-1 / Nef / エイズ脳症 / トランスジェニックマウス |
研究概要 |
ヒト免疫不全ウイルス1 (Human Immunodeficiency virus 1; HIV-1) 感染症では様々な神経障害が認められる。なかでも認知障害・運動障害を主徴とするエイズ脳症はエイズ患者の60%に見られるともいわれ、患者の社会生活に大きな障害をもたらす。エイズ脳症における神経組織の障害はウイルスの感染・増殖による直接的な障害だけではなく、ウイルス蛋白に対する生体の反応など間接的な障害が複合した多彩な病態であると提唱されている。エイズ脳症に関与することが示唆されているウイルス蛋白質のうちNefはCD4の発現抑制、MHC class Iの発現抑制、シグナル伝達分子との相互作用の他、アポトーシスの誘導など多様な機能を持つことが知られている。また、エイズ脳症患者の脳から分離されるウイルスのNefに特異的な変異があるという報告もあり、Nef はエイズ脳症発症の重要な鍵となると考えられる。本研究ではこのNefに注目し、ウイルスの感染・増殖という現象を伴わずにNefが単独で宿主細胞に影響して神経病原性を発揮するかを調べるため作製したNef発現トランスジェニックマウス (Nef Tg) について解析を進めたところ、進行性の運動失調、協調性失調、てんかん様発作など重篤な神経症状が認められ、病理組織学的には脳および脊髄におけるアストロサイトの著明な増生、ミクログリアの増加・集簇、白質の空胞化、リンパ球浸潤、神経細胞変性・細胞死といった多彩な病変が観察された。また、Nef Tgの脳ではIP-10等のケモカインの発現が増強していた。これらはエイズ脳症の病態と一致するものであり、Nefの発現がエイズ脳症の神経病理発生に重要な役割を持つことを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
常時発現型のNef Tgマウスの詳細な行動解析・病理組織学的解析・Nef発現解析については概ね予定通り実施できた。また、次年度実施予定であったTgマウスで発現異常が認められる宿主遺伝子の探索にも着手することができ、複数のケモカインの発現増強が確認できた。 一方、本年度は、発現誘導型Nef Tgを新規に作出し、病理学的解析・行動解析を実施しエイズ脳症モデルとしての可能性を評価すると同時に、病態発現とNef 発現との相関性を明らかにする予定であったが、①発現誘導型系統の作出に当初使用する予定だったDox誘導Tet-On システムでは非特異的な発現が発生することがあるため、タモキシフェン誘導Cre-loxPシステムを利用することにした、②このことにより発現誘導トランスジーンの入手や調整・発現誘導に必要な動物材料の入手に予定より時間がかかったため、新規系統の作出に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
1) H24年度に系統確立に至らなかった発現誘導型Nef Tgマウスの作製を継続する。すなわち、DNA組換え酵素Cre存在下でNefを発現するプラスミドから調整したloxP-PuroR-loxP-nef配列を含む遺伝子断片を持つloxP Nef Tgを作製し、これをタモキシフェン投与によってCreを発現するマウス(CreERマウス)と交配し、ダブルトランスジェニックマウス(loxP Nef/CreER Tg)を作出する。 2) loxP Nef/CreER Tgにタモキシフェンを投与しNef発現を誘導して、行動解析・病理組織学的解析を行い、エイズ脳症の所見と詳細に比較検討し、疾患モデル動物としての可能性を評価する。 3) 本年度常時発現型Nef Tgで発現増加が確認されたケモカイン群に加え、アポトーシス関連分子、キナーゼ群を特に重点的に、遺伝子発現変動についてDNAマイクロアレイおよびユニバーサルプローブライブラリーセットを用いたリアルタイムPCRによって網羅的に解析する。発現異常が認められる遺伝子を同定した後は、その遺伝子の発現変動についてリアルタイムPCRによって解析する。 4) Nef Tgの脳からNef発現アストロサイトを分離する。この培養上清が単球あるいはT細胞遊走活性を持つかを、ケモタキシスチャンバーを用いて解析する。また、この初代培養アストロサイトをマウス神経細胞と共培養し、神経細胞に及ぼす影響をタイムラプス顕微鏡で観察・評価する。 5) Nefの発現を特異的に抑制するsiRNAを投与してNef発現を抑制すると病態が改善するか、行動解析・病理組織学的解析で確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述のとおり、発現誘導型系統の作出に当初使用予定だったDox誘導Tet-On システムでは非特異的な発現が発生することがあるため、タモキシフェン誘導Cre-loxPシステムを利用することにした。そのため、本年度使用予定であった研究費の一部を、発現調整用のトランスジェニックマウス(CreERマウス)の購入費、loxP Nef TgとCreERマウスとのダブルトランスジェニックを作出するためのマウス購入費として、翌年度分の物品費と合わせて使用する計画である。
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