ヒト免疫不全ウイルス1 (Human Immunodeficiency virus 1; HIV-1)感染症では様々な神経障害が認められ、なかでも認知障害・運動障害を主徴とするエイズ脳症は高頻度に見られ重要な問題となっている。エイズ脳症の発症機序の詳細は不明であるが、神経組織の障害はウイルスの感染・増殖による直接的な侵襲だけではなく、ウイルスタンパク質に対する生体反応など間接的な障害が複合した多彩な病態であると言われている。HIV-1蛋白質のNefはCD4やMHC class Iの発現抑制、シグナル伝達分子との相互作用、アポトーシス誘導など多様な機能を持つ。さらに、エイズ脳症患者の脳から分離されるHIV-1のNefには特異的な変異があるという報告があり、Nefがエイズ脳症発症に何らかの役割を持つと考えられる。本研究ではこのNef蛋白質に着目し、Nefを脳で発現するトランスジェニックマウス(Nef Tg)を作製し解析を進めたところ、Nef Tgは運動失調・後躯麻痺・てんかん様発作など重度の神経症状を示した。また病理組織学的には脳および脊髄におけるアストロサイトの著明な増生、ミクログリアの増加・集簇、白質の空胞化、リンパ球浸潤など多彩な病変が観察された。本年度は、Nef Tgの脳におけるサイトカイン・ケモカイン発現についてアレイ解析を進めたところ、IP-10、Eotaxin、MCP-1、IL-17等複数の遺伝子発現が増強していることを明らかにした(各々野生型マウスの約5倍、5倍、3倍、7倍)。また、発現誘導型Nef Tgマウス (loxP Nef Tg) の作出を進めた。
|