乳汁を分泌する乳腺腺胞上皮細胞は妊娠中に増殖・分化し、分娩前後に乳汁分泌能を獲得する。しかし、乳腺胞上皮細胞の乳汁分泌能は離乳にともなって消失し、やがて乳腺胞細胞自体も消失する。この一連の流れの中で乳腺胞上皮細胞間に存在するタイトジャンクション(TJ)の構造的、機能的変化も起きることが知られている。しかしながら、乳腺胞TJを調節する因子や乳腺胞TJと乳汁分泌能の関係など、いまだ不明な点が多い。そこで本研究では、畜産酪農の分野に貢献する知見を得ることを目的として、乳腺胞上皮細胞の乳汁分泌能とTJの関係について調べた。 これまでの研究結果から、ホルモン、成長因子、および炎症性物質の中にTJのバリア機能およびTJ構成タンパク質の変化を誘導する因子が多様に存在することが分かった。特に泌乳期乳腺の乳分泌能を誘導するコルチコイドとプロラクチンは、TJ構成タンパク質であるClaudin 4 (CLD-4) の発現を各々促進、抑制するという相反関係であることがわかった。また、CLD-4は分娩前に増加し、泌乳とともに減少するCLDであることから、生体においてもコルチコイドとプロラクチンが、泌乳期前後のTJの変化を誘導していると考えられた。 乳汁分泌能の低下は乳房炎の際にも認められる。そこで大腸菌性乳房炎.の内毒素の一つであるリポ多糖(LPS)が乳腺胞のTJと乳分泌能に及ぼす影響について調べた。その結果、LPSは投与3時間以内に乳腺胞のTJを構成するCLD-3の脱リン酸化およびCLD-7の局在変化を誘導し、TJの構造的、機能的変化を引き起こすことが明らかになった。また、投与12時間後にはCLD-1とCLD-4の発現も亢進しており、離乳後のものと類似したCLD組成を示した。乳成分の合成量や分泌量も低下していたことから、LPSは乳腺胞のTJと乳分泌能の変化を離乳時に近い状態に誘導していると考えられた。
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