研究課題/領域番号 |
24780286
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安尾 しのぶ 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30574719)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 情動 / 代謝 / 光周性 / 神経伝達物質 |
研究概要 |
動物の情動や代謝機能は日長の影響を受ける。我々はこれまで、短日条件でうつ様行動が増加するとともに脳内セロトニン含量が減少するマウス系統を見出している。本研究ではこのマウスモデルを用いて、日長による情動・代謝機能の制御メカニズムを解析した。 日長とセロトニン合成系の関連を調べるため、セロトニンの前駆アミノ酸であるL-トリプトファン含量を縫線核で測定したところ、短日条件では長日条件に比べて低下していた。さらに、L-トリプトファンの脳内移行率を決定する血漿L-トリプトファンと大分子中性アミノ酸比も短日条件で低下していた。血漿アミノ酸バランスは筋肉や脂肪代謝と関連することから、日長が末梢組織の代謝変化を介して脳内セロトニン合成を制御する可能性が考えられる。 日長がセロトニン神経系に及ぼす影響を分子レベルで解析するため、セロトニンの合成酵素TPH2や再取り込みトランスポーターSERT、またセロトニン受容体5HT1Aなどの遺伝子発現を縫線核において解析した。TPH2およびSERTの発現には日内変動が見られ、日長により変動パターンに変化が見られたが、日長の主効果は認められなかった。従って、日長によるセロトニン含量の変化にはL-トリプトファンの脳内移行率や、セロトニン制御因子の転写後調節が主に関わると示唆される。 日長によるセロトニン神経系制御の時空間的カスケードを解析するため、経時的に脳の各部位を採取してセロトニンを解析したが、今年度解析した1-3週間の範囲では顕著な変化が認められなかった。引き続き現在、4-12週間にわたり解析を行っている。また腹腔内埋め込み式体温ロガーと回転輪を用いて、日長と照度が体温リズムと活動リズムに及ぼす影響について周波数解析を行い、日長が様々な周波数のリズムに影響することが解明された。これらの結果は冬季うつ病の病態を理解する上で重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度予定していた実験は全て終了し、順調に結果が出ている。時空間的カスケードの調査については、予想と異なり1-3週間で変化が確認されなかったが、さらに4-12週間といった長期間の解析を加えることで、より明確な結果が期待できる。また次年度に予定している体温リズムおよび活動リズムの解析について、条件検討や実験の一部を今年度行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果をさらに深く追求するため、引き続き日長によるセロトニン神経系制御の時空間的カスケードの解析や、体温・活動リズムの解析を詳細に行う。今年度の結果から、日長によるセロトニン神経系制御には末梢組織の代謝変化の関与が示唆されたため、時空間的カスケードを解析する際、筋肉や脂肪の代謝マーカー発現についても解析し、末梢と中枢のネットワークを一つのシステムとして捉える。また夜行性のマウスの結果が昼行性の動物にもあてはまるかを検証するため、昼行性齧歯類を用いた解析も進める。これらの検討により、光条件による畜産動物の生産性や肉質制御といった応用へ繋ぐことが可能となる。 次年度は、日長の違いのみでなく光照度や高照度光パルスを組み合わせることで、効率的に情動や代謝を制御することを目指す。また分子メカニズムに関しては、遺伝子発現レベルのみでなく、再取り込みトランスポーターの取り込み機能の解析や、免疫染色によるタンパク局在の定量、また神経活性マーカーの定量などにより、多角的な解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は購入を予定していた実験動物や遺伝子発現解析試薬の入荷の遅延により、242,197円の残金が生じた。これは次年度に物品費(実験動物150,000円, 遺伝子発現解析試薬92,197円)として使用予定である。次年度のその他の使用計画に変更はない。
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