研究課題
オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)は、ウイルス感染時などにインターフェロンによって誘導され、RNA分解カスケードによりウイルスの排除を促進する。しかしフラビウイルスにはインターフェロンによるOAS等のインターフェロン誘発因子の発現を拮抗する機能があり、これにより宿主側のインターフェロン誘導性の抗ウイルス作用を阻害して増殖できると考えられている。当該年度においてはこのフラビウイルスのインターフェロンアンタゴニズムの機能の詳細を明らかにするために、ダニ媒介性脳炎ウイルスの自然界で犬より分離された弱毒株、脳炎発症患者より分離された強毒株、及びオムスク出血熱ウイルスを元に、リバースジェネティクス系を用いてインターフェロンアンタゴニスト機構をノックアウトしたウイルスの作製を試み、その性状の解析を試みた。ウイルスゲノムのRNAポリメラーゼ機能を持つNS5蛋白に変異を導入することでインターフェロンアンタゴニスト機能が減弱したウイルスを作製することに成功した。培養細胞において、元のウイルスはインターフェロン作用化においても高い増殖性を示したのに対し、変異ウイルスは増殖性が減少しており、活性化したOASをはじめとするインターフェロン誘発因子により、ウイルスが排除されていることが示された。さらに解析を進めることにより、NS5の変異によりインターフェロンレセプターのシグナルにおいて重要なJAK-STAT系において、STATのリン酸化を阻害することによりインターフェロン応答配列の活性化が抑制されていることが明らかになった。今回解析を行ったインターフェロンアンタゴニズムは、OASの持つフラビウイルス特異的な抵抗性に対するウイルスの回避機構として重要な意味を持つため、今後の詳細な解析が期待される。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究計画では、病原性に関わるウイルス因子の同定を行う計画であったが、現在までの研究によりNS5蛋白に変異を加えたウイルスはインターフェロンによる抗ウイルス作用に対する感受性が上昇し、それによりウイルスの増殖性が減弱することが示された。これにより今回導入したNS5の変異はウイルスの病原性に大きく関わっており、ウイルスの弱毒化につながることが明らかになった。これらの結果から今後の研究においてこのNS5の機能を解析することによって、さらに詳細なメカニズムの解明が期待できるようになった。また当該年度の2点目の検討事項である、フラビウイルスの病態発現機序の解析についてだが、ウイルスの感染した細胞ではJAK-STAT系におけるSTATのリン酸化を阻害されることで、下流シグナルにあるインターフェロン応答配列の活性化を抑制された。これによりOASをはじめとするインターフェロン誘発性因子の発現が減少することで、細胞が抗ウイルス状態へと移行するのが阻害されることが明らかになった。このインターフェロンアンタゴニズムによって、フラビウイルスの感染したマウスではインターフェロンを介した防御機構による体内からのウイルス排除が上手く働かず、病原性の上昇につながっているものと推定される。このような病態発現機序に関わる成績を元に、平成25年度では生体・細胞・分子レベルでのOASをはじめとするフラビウイルス抵抗性因子の解析を詳細に行うことが可能になった。
これまでの解析結果をもとに、今後は生体・細胞・分子レベルでOasとウイルスの相互作用により、どのようにウイルスが排除されていくか、その詳細を解析し、フラビウイルス脳炎の病態発現機序、及びその機序に対するOasによる感染抵抗性の役割を総合的に考察していく。まずOas遺伝子を哺乳動物細胞での発現ベクターへクローニングし、Oas遺伝子に変異や欠損を導入したOas発現培養細胞を作製する。並びにB6/B6.M-Oasマウス由来初代培養神経細胞を単離する。これらの細胞に対して各フラビウイルスを感染させ、1.共免疫沈降やゲルシフトアッセイによるフラビウイルス蛋白/フラビウイルス遺伝子RNAとOasの結合性及び結合部位の同定、2. フラビウイルス感染細胞内でのウイルス力価測定によるウイルス増殖とリアルタイムPCRによる遺伝子RNAの複製の動態の検討、3.ウエスタンブロットによるOasの発現量と活性化による2-5A合成酵素活性の測定、4.RNase L活性測定によるRNA分解経路の活性化の検討、5. インターフェロン投与により自然免疫を賦活化した場合や、マイクロアレイによって解析された遺伝子をRNAiによりノックアウトした場合の上記各項目への影響を解析する。解析結果から、a) Oas1bのどの領域が、b) フラビウイルス感染のどのような機構を認識し、c) どのような機序でウイルスを排除していくかという感染抵抗性の分子機構を解明する。以上の得られた成績から、1.フラビウイルス感染により起こる脳炎の病態発現機序、及びその機序に対して2.Oasを介したフラビウイルス感染特異的な抵抗性がどのように関与するかという点に関しての生体内及び分子レベルでのメカニズムについて総合的に考察する。
本研究では海外研究協力者との間で実際に海外で発生しているフラビウイルスの野外分離株の疫学情報等の情報解析の協力や、研究試料の供与等の研究協力を受けつつ進めている。当該研究年度では先方の都合により、当該研究年度の年度末に予定していた研究打合せ及び関連実験が次年度に変更されたため、当該研究費はその研究打合せの為の旅費及び、関連実験の為の消耗品購入に充てる予定である。
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