研究課題
平成24年度は、プリオン感染マウスの脳の凍結切片を免疫染色し、神経変性疾患であるプリオン病の病態機序におけるアストロサイトの役割を明らかにする計画であったが、機関の移動に伴い、感染動物実験の準備に多くの時間を要すことが予測されたため、平成25年度に予定していた初代培養系を用いた実験を先に行った。マウス胎子由来のニューロスフェアモデルにプリオンを感染させ、GFAP陽性のアストロサイトにおいて、どのような細胞内局在を示すかを明らかにした。用いたプリオンの株は、マウス馴化スクレイピーである帯広株、チャンドラー株、22L株、およびマウス馴化牛海綿状脳症であるKUS株を用いた。細胞内小器官のマーカーとして、ERCマーカーのRab11a、後期エンドソームマーカーのRab7およびRab9、前期エンドソームマーカーのRab5、ゴルジマーカーのTgn38およびGiantin、リサイクルおよび後期エンドソームとゴルジ複合体のマーカーであるFlotillin、前期エンドソームからリソソームまでのマーカーであるLamp1とCathepsinDを用いた。感染後、15日と30日において、PrPSc特異的免疫染色法にてPrPScと上述した細胞内小器官マーカーとを共染色し、共焦点顕微鏡にて観察した。その結果、PrPScはFlotillin、CathepsinDおよびLamp1と主に共局在しており、Tgn38およびGiantinとは共局在を示さず、Rab5aとRab11aとはいくらか共局在を示した。これらより、PrPScはアストロサイトにおいて主にリソソームに存在することが明らかになった。また、プリオン病と同様に、脳内で明瞭な炎症性変化を示さず神経変性が生じる感染症に、ボルナウイルス感染ラット新生子モデルがある。そこで、ラット新生子由来アストロサイトにおいてボルナ病ウイルスの感染が成立する条件を検討した。
3: やや遅れている
プリオン感染アストロサイトと神経細胞との共培養を行い、アストロサイトが神経細胞に与える影響を明らかにしようと考えているが、神経細胞の純培養系に少数ではあるが、アストロサイトが混入する。このアストロサイトの突起が、神経細胞の突起に寄り添うように存在し、アストロサイトに寄り添われた神経細胞は、そうでない神経細胞と比較して、形態が美しく保持されており、細胞の状態がよい。このように、わずかではあるがアストロサイトが混入することで、神経細胞の状態の評価を混乱させている。また、PrPScが神経細胞の突起に認められるように見える場合であっても、混入したアストロサイトの突起が寄り添っており、神経細胞とアストロサイトのいずれがPrPScを保持しているのか判別が付き難い視野もある。アストロサイトの混入をさらに減らすような技術的な改善か、あるいは解析方法の細分化などの工夫が必要である。さらに、初代培養系において、神経細胞でプリオンの感染が確認できるまでに長期間を要する。今回研究実績に示した、ニューロスフェアモデルでは、細胞を30日培養した後にプリオンKUS株に暴露し、感染後30日で神経細胞に明瞭なプリオンの感染が認められ、実験開始から神経細胞におけるプリオンの感染の確認まで60-70日を要する。また、神経の純粋培養系では、細胞を6日培養した後にプリオンに暴露し、20日後に明瞭な感染が認められ、実験開始から25日程度を要する。このように、一回の実験のスパンが長いことが今回やや遅れている理由であると考えられる。
今後は、アストロサイトがプリオン病等の神経変性疾患における病態機序にどのような役割を果たしているのかを明らかにするために、今年度初代培養系で得られた結果を元に、今後は初代培養系を用いた解析をさらに詳細に推し進める予定である。技術的な面では、神経細胞の純培養系の純度をさらに高める工夫を行うとともに、アストロサイトの混入があることを前提として、解析の方法を工夫したい。また、プリオン病と同様に、脳内で明瞭な炎症性変化を示さず神経変性が生じる感染症にボルナ病の新生子ラットモデルがある。プリオンを用いた初代培養系では一回の実験のスパンが長期間となるため、実験のスピードを重視し、ボルナ病の原因であるボルナ病ウイルスを用いて実験を進めることができないか検討したい。ボルナ病ウイルスの初代培養細胞への感染方法と感染効率の検討など、検討する項目は多いが、プリオン病の解析と並行して行うことで、実験の進捗を早めるとともに、非炎症性の中枢神経系疾患におけるアストロサイトの役割に関する様々な知見が得られるであろう。プリオンやボルナ病ウイルスに感染したアストロサイトが活性化しているかどうかをGFAP、サイトカイン、ケモカイン、神経栄養因子や神経ペプチドの発現により評価する。また、プリオンやボルナ病ウイルスに感染したアストロサイトと、非感染あるいは感染した神経細胞を共培養することで、神経細胞の変性の状態に影響を与えるかを評価する。
次年度の研究費は、初代培養に必要な動物や試薬の購入、タンパク質の検出に必要な抗体や核酸検出に必要な試薬の購入など、大部分を消耗品の購入に充てる。また、他機関での実験の実施や学会発表などのための旅費などに使用する。。
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