研究課題
トキソプラズマの潜伏感染ステージ虫体であるブラディゾイトと、増殖型虫体であるタキゾイトの遺伝子発現パターンをRNA-seq法によって網羅的に解析し、ブラディゾイト虫体特異的に発現上昇した遺伝子を抽出した。これらのうち、トキソプラズマ分泌器官であるロプトリーへの局在が予想されるROP28蛋白質に注目した。リアルタイムPCRでROP28遺伝子の発現パターンを各ステージで比較した結果、ブラディゾイトではタキゾイトに比べ有意に遺伝子発現の増加が確認できた。現在、同遺伝子をクローニングし、大腸菌発現系で蛋白質として発現させ抗血清を作出するとともに、ROP28ノックアウト原虫の作出を試みている。また、トキソプラズマの新規ランダムノックアウト法として、大腸菌由来シトシンデアミナーゼをポジティブセレクションマーカーとし、この上流にブラディゾイト特異的プロモーターを配したプラスミドを作出した。このプラスミドを原虫にランダムに導入して薬剤選択を行うことで、ブラディゾイトになれない原虫のスクリーニングを行っている。上記RNA-seq法によってブラディゾイト虫体特異的遺伝子の上流に存在する共通配列(シスエレメント候補配列)を決定することができた。現在、同配列に結合する原虫蛋白質をYeast-one-hybrid法によって同定することを試みている。原虫感染培養細胞のRNA-seq解析の過程で、宿主側遺伝子のうち抗ウイルス蛋白質に属する遺伝子群(Mx、OAS1など)の発現量がタキゾイト感染に比べブラディゾイト感染で有意に上昇していることを見いだした。さらに、原虫潜伏感染マウス脳においても同様の現象が怒っていることをリアルタイムPCRによって確認した。現在、このステージによって異なる宿主応答についても解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
RNA-seq法によってROP28だけでなく、ブラディゾイト特異的に発現する原虫遺伝子をいくつか同定することができた。また、同法によってシスエレメント候補配列も同定することができたため、大きな前進といえる。一方、本研究を進める過程で偶然にも原虫ステージ特異的に宿主抗ウイルス免疫応答が変化することを見いだした。これまでにタキゾイトーブラディゾイト感染細胞間における宿主側応答をみた研究は少なく、今後本発見を嚆矢として新たな研究を展開できる可能性が示されたと考えている。
ROP28だけでなく、見いだしたブラディゾイト特異的遺伝子のクローニング及び抗血清作製を随時行っていく。また、同定されたシスエレメント配列に結合する原虫蛋白質をYeast-one-hybrid法及びゲルシフトアッセイによって特定するとともに、ランダムノックアウトも継続し、ブラディゾイト形成に必須な遺伝子を特定する。これら遺伝子ならびに蛋白質の分子性状を解析するとともに、ノックアウト原虫を作製することで生物学的・病原性に及ぼす影響を明らかにしていく。また、今回見いだされた「潜伏感染状態のトキソプラズマは宿主抗ウイルス応答を亢進する」という新しい現象の意義及び機構についても解析を進めていく。
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