研究課題/領域番号 |
24780297
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中川 博史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (60336807)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞内小胞輸送 / トキシコロジー / 肝毒性 / ERストレス |
研究概要 |
フッ化アルミ錯イオンがその標的であるrER膜局在三量体Gタンパクの活性化を起こした際に、rER膜上での輸送小胞形成を阻害することにより、細胞障害を惹起することは、代表者のこれまでの研究にて明らかにしてきた。これまでタンパク輸送小胞のみに焦点をあてて実験を行ってきたが、肝毒性発現時に細胞内に脂肪滴の滞留が見られることから、本研究ではrER膜局在三量体Gタンパク活性化の、脂質輸送小胞制御機構への影響に関して検討を行うこととした。代表者が作成したNRK細胞ミクロソーム画分とラット肝細胞質画分からなるin vitro再構成系を用いた実験にて、タンパク輸送小胞であるCOPIIコート小胞のコート形成過程をモニタリングした結果、Sar1タンパクやSec23タンパク等のコートタンパク群のミクロソーム膜への移動を、三量体Gタンパク活性化が抑制することを明らかにすることが出来、その抑制機構に関して、既知のH89感受性キナーゼ依存調節系との関連・差異を示した(Nakagawa et al. Mol Cell Biochem. 2012)。一方で、脂質輸送小胞とCOPIIコート小胞は構造上の差異が少なく、コート形成過程に関してはほぼ同様の機構を取ることがこの一年で明らかとなってきた。COPII小胞形成調節機構の解明はPCTV小胞形成調節の解明にも役立つと考えられる。そして、COPII小胞およびPCTV小胞コート形成過程にて、第1段階に細胞質よりrER膜上に移動するSar1と第2段階に移動するSec23の調節がそれぞれ異なるkinaseによって支配されていることを学会にて発表した(第154回日本獣医学会2012岩手大学)。平成24年度中の主な達成目標であった、in vitro再構成系を用いたPCTV特異コートタンパクの解析については結論が出ず、詳細な検討を行っている途中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
In vitro再構成系を用いたER膜上への小胞コートタンパクの移動評価実験にて、コート形成に必須であり、第1段階にて細胞質からrER膜へと移動するSar1と、第2段階にて移動するSec23の移動が、それぞれ異なるkinaseによって支配されていることを明らかにした。このことはコートの移動調節機構が少なくともSar1とSec23の2か所以上に存在することを示すと考えられる。Sec23の移動を調節するkinaseについては、インヒビターを用いた実験にてcasein kinase IIであることを突き止めたので、ノックダウン実験等にて確認を行い次第、学術論文として投稿する予定である。 三量体Gタンパクの活性化によりrER膜への移動が抑制されるPCTVコートタンパクを探索した。PCTV輸送に関与することが判明しているタンパクCD36、Vamp7、FABP1、ApoB100について調べてきたが、現在のところ、そのいずれからもコートタンパク様の挙動を示すデータは得られていない。ApoB100についてはrER膜でのタンパク量に方向性のある変化は見られなかった。FABP1は三量体Gタンパク活性化時やH89処置時にER結合量の減少が見られたが、検出感度的に厳しく再検討を要する。Vamp7は輸送活性化に伴いER膜結合量の増加が認められたが、三量体GタンパクやH89処置時の結合量の変化は確証が得られていない。CD36は細胞質のみで見られER膜上では検出できなかった。 HepG2培養細胞を用いたNile Red染色による細胞内脂肪滴の観察については、三量体Gタンパク活性化物質mastoparan-7の処置により細胞内脂肪滴の増加が認められた。しかしフッ化物処置については作用が弱くまた例数が揃っておらず、結果の総括が出来ない状態にある。処置濃度・時間の詳細な検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
In vitro再構成系を用いたrER膜上へ移動するPCTVコートタンパクの探索について、実験条件を再検討する。検出が不安定なため、結論が出せなかった各PCTV関連タンパクCD36、Vamp7、FABP1、ApoB100について再検討を行う。具体的にはウエスタンブロット検出に際し検出試薬をより好感度なものに変更し改善を試みる。また幾つかの抗体については変更を行う。更にこれらに加えてコート形成タンパクの候補として2013年になってPCTVへの関与が報告されたCideBを検討する。またこれまで研究がほとんど行われていなかった、コートタンパク形成過程の第三段階であるSec13/31複合体のER膜への移動についても、調節機構の解明を試みる。PCTVに特異なコートタンパクを決定次第、(1)ER膜へのPCTVコートタンパクの移動に対するER膜局在三量体Gタンパク活性化の影響、(2)出芽したPCTVの数量とコートタンパク結合量へのER膜局在三量体Gタンパク活性化の影響、(3)PCTVのGolgi膜への融合に対する三量体Gタンパクの影響についてin vitro再構成系を用いた検討を行う予定である。 培養細胞を用い、脂質分泌を解析し、H89や三量体Gタンパク活性化による細胞外への分泌の抑制を確認する。詳細としては、Nile Red染色による細胞内脂肪滴評価系を用い、H89やmastoparan-7処置だけでなく、フッ化ナトリウムまたはフッ化アルミニウム錯イオン処置群において細胞内に形成される脂肪滴の観察を行う。更にフッ素投与ラットを作出し、肝細胞内の脂肪滴貯留を観察することにより、タンパク輸送と脂質輸送のフッ素投与に対する感受性の違いを検討する。In vivoの実験に関しては、期間が不足する場合には培養細胞系への変更も考慮する。
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次年度の研究費の使用計画 |
PCTVコートタンパクの探索のため、これまで調べてきた各PCTVコート候補タンパクCD36、Vamp7、FABP1、ApoB100の中で特に検出が不安定であったCD36やApoB100について、別途新しい抗体を購入する。また新規PCTV関連タンパクCideB等の他のタンパクについても追加で検討を行うため、新たに抗体を購入する予定である。また既知のコート関連タンパク(Sec23、第3段階にて細胞質よりrER膜へ移動してくるSec31)等についても抗体を購入する予定である。以上に加えて、ウエスタンブロットの検出試薬をより好感度なものに変更する等、ウエスタンブロットの検出系自体の再検討も行う予定である。 細胞内脂肪滴滞留の測定に関して、Nile Red蛍光染色法が不適な場合は、Oil Red O染色等の他の細胞内脂肪滴検出法を試みる。更に必要な場合は、トリチウムラベルオレイン酸を含む培養液で培養した細胞系を用い液体シンチレーションカウンターによる脂質分泌量の測定を行う予定である。肝細胞株として現在HepG2細胞を用いているが、実験の進行によっては他の細胞株についても検討を行い、場合によっては肝初代培養系を用いる。そのためin vitroの実験系の為のラットの購入も検討する。最後にin vivoで組織標本を作製し、肝細胞内におけるCOPIIタンパク小胞輸送とPCTV輸送の滞留について観察を行うため、ラットを購入する予定である。
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