動物由来ブドウ球菌であるStaphylococcus sciuriグループに属する菌種の染色体上には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の決定因子であるメチシリン耐性遺伝子(mecA)の起源およびそのホモログが存在している。本研究において、MRSA誕生の過程を解明するため全ゲノム配列の解析を予定していたS. sciuriグループに属する4菌種全て(S. fleurettii、S. sciuri、S. vitulinus、S. lentus)の染色体DNAの解読を完了し、4株の環状DNAを完成することができた。しかし、S. sciuri subsp. carnaticusの保有する約100kbpのプラスミドの一部に繰り返し配列が複雑に存在するため解読が進まず、期間内に全ゲノムを解読するには至らなかった。解読できていない部分はわずか20kpbであるので、今後はInverse PCRに切り替え、解読を早期に完了させる予定である。 新規ゲノムの全塩基配列決定は非常に困難で、特に次世代シークエンサーで得たドラフトシークエンスを繋げる作業に時間と労力を費やさなければならない。しかし、4株の新規ゲノム配列を決定する過程で、本研究の成果として、新規ブドウ球菌種のゲノム完全解読におけるノウハウを獲得したり新しい解析方法を開拓したりすることができた。全ゲノム解読を予定していたもう1つのS. sciuriの亜種(S. sciuri subsp. sciuri)に関して、本研究で最終的に最良の方法と判断した1分子リアルタイムDNAシーケンサーであるPacBio RS IIを用いて、今後、全ゲノム配列を早期に決定する予定である。いくつかのアプリケーションを使用して菌種間のゲノム比較を実施し、その選定について検討中である。菌種間のゲノム比較により、進化学的にMRSAが誕生した過程を解明する。
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