研究課題/領域番号 |
24780304
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
細谷 謙次 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (50566156)
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キーワード | 腫瘍 / 抗がん剤 / 新規治療 / がん治療 / 犬 / 組織球性肉腫 |
研究概要 |
本年度は培養腫瘍細胞株パネルにおけるアルテミシニン類の生体内活性型であるジヒドロアルテミシニン(DHA)の抗腫瘍作用スペクトラムを調査し、細胞毒性効果に関与する細胞側の要因の分析を目的とした。 2つの犬組織球性肉腫細胞株を含む8種の犬またはマウス由来腫瘍細胞株および犬/マウスの正常線維芽細胞を用いin vitro試験を実施したところ、犬組織球性肉腫細胞株2種では、他の腫瘍細胞株より高い感受性が認められた。また、正常線維芽細胞では100uMまでの範囲で細胞毒性は認められなかった。正常犬にて血中濃度を測定したところ、IC50には達しなかった。しかしながら、犬組織球性肉腫移植マウスにおいては効果は認められており、in vivoでは効果発現が異なることが示された。上記パネルのうち、最もDHA感受性の低かったマウス扁平上皮癌細胞(IC50>100uM)を用いた移植マウスにおいても、in vivoではDHAによる腫瘍増殖の有意な遅延が認められた。 10種の腫瘍細胞株/正常細胞にて、鉄のキレートによりDHAの効果は完全に消失することが確認された。鉄を単体またはホロトランスフェリンの形で添加した場合において各細胞のDHA感受性の変化をみたところ、単体の鉄添加によりIC50の低下を認めた細胞株と、ホロトランスフェリンの添加時にIC50の低下を認めた細胞株が認められた。また、正常線維芽細胞においては、鉄添加によるDHA細胞毒性効果の増強は認められなかった。 具体的な鉄代謝関連因子としてトランスフェリン受容体およびフェリチンについて、リアルタイムPCR法を用いて、細胞内mRNAの相対定量を行った。本実験では、単体の鉄添加によりIC50の低下を認めた細胞株ではフェリチンの遺伝子発現量の増加傾向が、ホロトランスフェリンの添加時にIC50の低下を認めた細胞株ではトランスフェリン受容体の遺伝子発現量の増加傾向がそれぞれ認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以上の様に、本研究は、当初の予定に従って概ね良好に進行している。ただし、昨年度計画した、犬組織球性肉腫移植マウスモデルの作成においては、血球貪食性組織球性肉腫細胞株のマウスへの生着が不良であり、現在も作成を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた結果を踏まえて、今後は:1. 犬およびマウス腫瘍細胞株と犬/マウス正常繊維芽細胞におけるフェリチン、トランスフェリン受容体の遺伝子発現量とDHA感受性の関連性の検討(継続)2. 犬およびマウス腫瘍細胞株と犬/マウス正常繊維芽細胞におけるフェリチン、トランスフェリン受容体の遺伝子発現量と鉄添加方式の違いによるDHA感受性増強効果の関連性の検討(継続)3. 血球貪食性犬組織球性肉腫細胞移植マウスモデルの作成(継続)による、生体内でも血球貪食現象の確認およびそれによるDHA感受性の効果の検証 4. 犬組織球性肉腫に対する新規治療法の模索:アルテミシニン類化合物による従来の化学療法薬の増強効果の検討、新規化学療法薬の模索、細胞介在性免疫療法のin vitroにおける検討を予定している。 1および2では、犬組織球性肉腫がアルテミシニン誘導体に感受性を示す機序として、トランスフェリン受容体高発現、フェリチン高発現および直接的赤血球貪食の3つが考えらえれているが、そのうちトランスフェリン受容体発現量およびフェリチン発現量が細胞のDHA感受性に与える影響について検証する。本年度と同様にリアルタイムPCR法を用いた相対定量法を用いる予定である。3では、犬組織球性細胞株のうち、血球貪食性の低いもの(樹状細胞由来)および高いもの(マクロファージ由来)を用いて作成した担癌マウスモデルを用い、生体内におけるジヒドロアルテミシニンの抗腫瘍効果を検討するとともに、血球貪食量との関連を検討する。4では、アルテミシニン類化合物の臨床応用を視野に入れ、従来化学療法との併用による増感効果の有無、新規化学療法薬/免疫療法的手法のin vitro試験およびアルテミシニンによるそれらの増感効果を試験する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度において、予想していた実験計画よりも少ない実験回数で予定の結果を得ることができ、各種消耗品購入費が予定よりも低く抑えられた。また、研究成果を発表予定であった日本獣医学会学術集会が、年2回開催から年1回開催に変更され、発表のための学会参加費および旅費などの諸経費が次年度の学会での使用に変更された。 次年度の実験計画を遂行するにあたり、 ・各種実験に必要となるガラス実験器具費:約100(千円)・細胞培養関連器具・試薬:約200(千円)・アルテミシニンをはじめとする各種生化学試薬:約500(千円)・実験動物(犬、マウス等)購入および飼育施設使用料:約450(千円)・旅費:約200(千円)の使用を予定している。
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