本研究は、好中球機能不全症を呈する症例犬の病態解明およびウシラクトフェリン(LF)療法の治療機序を明らかにするために実施されたものである。 ①症例犬は好中球CD18発現の低下により好中球の活性酸素産生能の著しい減弱を呈していたが、PKC以降のシグナル伝達障害の有無を調べた。PKCを直接刺激するPMAに対する活性酸素産生能試験の結果、症例犬では健常犬と同レベルの活性酸素の産生が認められたが、最大発光量に達するまでの反応時間は2.6倍ほど長く要した。したがって、症例犬ではPKC以降のNADPHオキシダーゼを活性化するシグナル伝達経路には障害はないが、外的刺激に対する反応時間の遅延がある為にNADPHオキシダーゼコンポーネントの過剰発現をもたらし、CD18非依存性活性酸素産生能を維持させている可能性が考えられた。 ②症例犬に対するLF療法では、慢性炎症に伴う二次性鉄欠乏性貧血を正常犬レベルまで回復させた。活性酸素産生には生体内の鉄が不可欠であることから、LFの慢性炎症の調節と血中鉄分補充効果が好中球の機能回復につながっているものと考えられた。LF療法は、OZが作用するCD18依存性活性酸素産生能を回復させていたことから、好中球性前骨髄球が主体のHL-60細胞へのLF添加試験にて効果を検討した。その結果、LF無添加群に比較してLF添加群がOZ刺激に対して約1.5倍の活性酸素の産生を認めた。一方、PMA刺激に対しては、LFの添加の有無に関わらず変化がなかった。以上より、HL-60細胞株においても、LFはPKC以前のCD18依存性活性酸素産生経路に作用・調節することで活性酸素産生を促すことが明らかとなった。 遺伝性疾患を疑い、症例犬における好中球RNAについて、以前解析した部位以外の配列の解析を行うことを計画していたが、保存していた核酸での解析が困難であったことからITGB2全領域の解析に至らなかった。
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