原発性副腎皮質機能低下症および原発性甲状腺機能低下症は、副腎や甲状腺の萎縮や破壊により機能障害が起こり、ホルモンの分泌が低下する疾患である。人では自己免疫性の機序が知られており、犬でも同様の病態が存在すると考えられているが、犬における病態に関する情報は多くない。本研究は、犬の副腎皮質機能低下症および甲状腺機能低下症における末梢血液中の自己抗体や標的抗原に関する情報を得ることを目的とした。 犬の副腎およびその他の内分泌組織からの抽出物と、ヒトの副腎特異的蛋白(P450c21、P450c17、P450c11)を用いて自己抗体を検出するELISA測定系を確立した。抗体測定の結果、副腎抽出物に対する自己抗体が副腎皮質機能低下症の犬の9頭中3頭、P450c21およびP450c17に対する自己抗体が9頭中それぞれ3頭および1頭で検出された。これらの犬の副腎皮質機能低下症には自己免疫性の病態が関与している可能性が考えられた。また9頭中1頭では卵巣抽出物に対する抗体が検出され、抗ステロイド産生細胞全般に対する抗体の存在も示唆された。 副腎抽出物に対する自己抗体をウエスタンブロッティングで検出したところ、分子量約153kDaおよび125kDaの蛋白に対する抗体が検出された。これらの蛋白に対しては、今後2次元電気泳動および構成アミノ酸の決定を行い、標的となっている抗原蛋白を同定していく予定である。 副腎皮質機能低下症と同様に甲状腺機能低下症の犬でも甲状腺抽出物を用いてELISAおよびウエスタンブロッティングを実施した。正常犬で観察されなかった自己抗体が甲状腺機能低下症の犬において検出されたため、副腎皮質機能低下症の犬と同様、標的蛋白の同定を進めている。
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