研究課題
若手研究(B)
ES 細胞(胚性幹細胞)とiPS 細胞(人工多能性幹細胞)をネコで作製するために、本年度は以下の研究成果を得た。1.顕微授精からのネコES 細胞株の樹立未受精卵子と精子を用いて体外受精を行った。培養時の酸素濃度を20%と5%に調節して、体外成熟、体外培養を行い比較検討を行った。その結果、体外成熟では20%、体外培養では5%の酸素濃度が適した培養環境であることがわかり、胚盤胞期胚が多く得られた。次に、ピエゾマイクロマニピュレーターを用いた顕微授精を行ったところ、顕微授精を用いても胚盤胞期胚まで成長することが明らかとなった。これらの結果より、ES 細胞株樹立に必要な受精卵を大量に作製する準備が整った。2.ネコiPS 細胞株の樹立ネコ胎子線維芽細胞にレトロウイルスを用いてマウスOct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycの4 遺伝子を導入した。その後、ウシ胎子血清(FBS)添加ヒトES培地で培養したところ、45継代以上維持が可能なネコiPS様細胞株が得られた。樹立した細胞株はヒトiPS細胞と類似した形態を示した。また、未分化マーカーを発現し、継代数の多いものでは導入遺伝子は検出されず、すべての継代数でNanog遺伝子は検出された。さらに各胚葉のマーカーに陽性を示す細胞へ分化した。核型は2n=38 XY型を示し、長期継代後も正常であった。3.ネコLIFの作製:クローニングにより609 bpのcDNAを得た。成熟タンパク質に相当する配列は540 bpであり、ヒトLIFアミノ酸配列と90%が一致した。SDS-PAGEにより目的タンパク質の予想分子量である70 kDa付近にバンドを確認した。さらにThrombinによりタグ配列を除去し、ネコLIFの予想分子量である20 kDaのタンパク質を分離した。作製したネコLIFはマウスES細胞の未分化性を維持し、TF-1細胞の増殖を促進した。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的として、平成24年度はネコ多能性幹細胞の樹立を目指していた。その結果、①顕微授精からのネコES 細胞株の樹立に関しては、顕微授精によってES細胞株の樹立に必要な胚盤胞期胚の作製が可能となり、さらに、②ネコiPS 細胞株の樹立に関しては、45代以上継代が可能であったネコiPS細胞株を樹立できたことから、目的の大部分を達成できており、現在までのところ、順調に研究は進展していると考えられる。
今回、ネコiPS細胞株が樹立できたが、研究を推進するためには、多くの細胞株が樹立されていることが望ましい。そのため、さらなるiPS細胞株の樹立をめざし、さらにネコES細胞株の樹立研究も推進する。さらに、今回作成したネコLIFを用いることで、より増殖能力の高いネコiPS/ES細胞株の作製を目指す。また、得られたネコiPS細胞を使用して、多能性幹細胞からの血液細胞への分化誘導を目指す。この計画は当初の予定通り行う。
当該助成金が生じた状況としては、iPS細胞の大量培養に必要となる各種のサイトカイン、シグナル活性化因子や阻害因子を用いた研究がまだおこなわれなかったことが要因の一つである。これらの試薬は高価であるため、次年度にはこれらの試薬を購入することになる。さらに、次年度は、ネコiPS細胞から血液細胞へ分化させる研究を行うことになっており、培地に添加する多くの試薬が必要となるため、これらの試薬の購入に多くの研究費を使用する予定である。また、得られた研究成果は学会等で積極的に発表するため、旅費としても一部使用する。
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Stem Cells Dev.
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doi:10.1089/scd.2012.0701.
http://www.vet.osakafu-u.ac.jp/cell/cell.htm