研究課題
若手研究(B)
DNA相同組換え修復酵素であるRAD51は、電離放射線等によるDNAの2重鎖切断発生時における相同組換え修復に必須である。しかし、RAD51高発現がん細胞においては相同組換え修復効率の亢進により放射線治療抵抗性が生じる場合がある。本申請課題においては、腫瘍性疾病が多いイヌより分離した種々のがん組織由来株化細胞を用い、RAD51の発現量と放射線治療抵抗性の相関を探るとともに、機能分子BRC repeatを用いた、RAD51を基軸とするDNA相同組換え修復効率の制御を標的とした新規治療戦略の開発に向けた臨床応用研究を行うことを目的とした。当該年度においては、イヌ乳腺腫瘍細胞株のうち、RAD51高発現細胞株および低発現細胞株の選定を細胞内RAD51タンパク質発現量をウエスタンブロット法により半定量した。またそれぞれの細胞株について放射線感受性とRAD51発現量の相関についても検討した。さらに、RAD51高発現放射線治療抵抗細胞株において、相同組換え効率の亢進を制御できる可能性があるイヌBRCA2のBRC repeat(BRC)の部分配列についてさらに検討した。具体的にはイヌのBRC3に存在する多型配列のうちK1435RがRAD51との相互作用を増強する点に注目し、詳細な解析を行い学術雑誌に発表した(Yoshikawa Y., Ochiai K., and et al., 2012. PLoS ONE)。また、RAD51との相互作用能力が最も高いイヌBRC4に既報の相互作用増強配列を組み込んだ改変分子を作製し、その機能解析を行った。本研究成果の一部は第154回日本獣医学会学術集会において発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度においては、イヌの乳腺腫瘍細胞株におけるRAD51の発現状況および放射線感受性の相関を解析に着手した。RAD51の発現は細胞周期等により増減するため、各種細胞の細胞周期をG0~G1期に同期化する必要があった。しかし、技術的な改善により各細胞株が持つRAD51タンパク質発現量を、細胞周期を同期化した状態で正確に定量することが可能となったことは非常に大きな成果である。また、RAD51高発現放射線治療抵抗細胞株に対するDNA相同組換え修復効率制御機能分子である改変型BRC分子の開発に関して、イヌBRC3領域の多型解析からK1435E改変によるRAD51親和性増加因子を発見し、詳細な解析を行い査読付き国際学術雑誌PLoS ONEに発表した。これにより、RAD51による相同組換え修復を制御できる可能性がある機能分子の開発が加速化し、分子創薬の基盤が構築された。以上の成果より、本研究課題の進捗は非常に順調であり、当初の計画以上に進行していると自己評価する。
申請者がこれまでに同定したV1532I 置換に加え、各種文献で言及されているRAD51 結合力増強に繋がるアミノ酸置換[Rajendra and Venkitaraman, 2010. Nuc. Acid Res., Nomme et al. 2010. J. Med.Chem.]を施した改変型BRC 分子を構築し、RAD51との結合力を、申請者を主著とする論文で使用されている実験方法であるMammalian Two-Hybrid Assayにより定量する。さらに平成24年度実施研究により見出されたK1435Eに相当するアミノ酸置換も行い、より強くRAD51と相互作用するBRC分子の開発および評価をおこなう。評価方法については前述のMammalian Two-Hybrid Assayだけでなく、BRCペプチドを用いたin vitro実験などにも着手することを目標とする。さらに、生体への投与実験を視野に入れたDrug Delivery Systemの開発に向けた基礎研究への移行を模索する予定である。
平成24年度については研究の基幹となる培養細胞を用いた実験に必須な炭酸ガス細胞培養装置を高額機器として購入し、研究の加速化に成功した。次年度については、細胞培養実験を主に実施するため「物品費」の割合を大きくする予定である。また、各種BRC分子構築の際のDNA配列確認のためのシーケンス作業を外注するため「その他」に該当する予算執行もある程度見込まれる。さらに、研究成果の公表および研究遂行のための技術習得・情報交換のための「旅費」についても若干執行する予定である。
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