セイヨウミツバチは、ハチミツ生産をはじめとする各種養蜂生産物(ローヤルゼリー、プロポリス、ハチロウ等)や栽培作物(イチゴ、メロン、スイカ、ウメ等)の受粉用昆虫として世界中で利用されている重要な養蜂種である。ミツバチの行動的特徴として、天敵から巣の仲間を守るために毒針を使った防衛行動をとる。この行動は、時として管理者である養蜂家や受粉時には農家に対して衛生上の問題となり、これが飼育管理を困難にさせている理由の一つである。このミツバチの防衛行動は、経験上、系統(遺伝的変異)に由来する攻撃性の相違があることは確認されているが、基本的にはどの系統も刺針行動を示す。今回、行動観察実験中に確認した刺針行動を示さない(温順な)ミツバチの変異体を対象に遺伝学的解析と純系の選抜を試みた。223種類のDNAマイクロサテライトマーカーを利用したジェノタイピングにより刺針行動に関与する遺伝子座の単離を行い、12種の遺伝子座で高い相関関係を確認することができた。これらの遺伝子座をDNAマーカーとした選抜育種法により、温順なミツバチ系統の固定を目的に1個体の雄蜂の精子を利用した人工授精法による交配方法を確立し、基礎集団(群)を20群程度作出することができた。この群に対して繰り返し、交配を勧め攻撃性に関する遺伝変異(遺伝率)を推定した。さらに高い遺伝率を示すことから、DNAマーカー情報をもとに選択交配を勧め、10世代(2年)の選抜育種を実施することができ、最終的に温順なセイヨウミツバチ系統の作成に成功した。
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