環境中に存在する様々な匂い物質を高感度に検出できる匂いセンサに対するニーズが高まっているが、既存のセンサは選択性や感度に課題がある。これまで、昆虫の化学感覚受容体のうち、嗅覚受容体を発現させたSf21細胞系統が高感度かつ選択的な匂い検出素子として利用できることを示してきたが、イオンチャネル型受容体(IR)を用いた匂い検出素子の開発には至っていない。本研究では、IRを用いた匂い検出素子構築の基礎技術の確立を目指し、①IRを機能発現させたSf21細胞系統の作出、②匂い検出性能の評価、③Sf21細胞系統を導入した匂いセンサチップの構築を実施した。 ①キイロショウジョウバエ触角で機能する16種類のIR遺伝子を単離し、これらのうち応答が明らかなIRを対象に、補助タンパク質、およびカルシウム感受性蛍光タンパク質とともにSf21細胞に遺伝子導入した。抗生物質によるスクリーニングに加えて、RT-PCRによる遺伝子の転写量を指標に、IRおよび補助タンパク質を安定に発現し、蛍光を示す複数のSf21細胞系統を作出した。 ②前年度までに作出した細胞系統について、蛍光顕微鏡および蛍光プレートリーダを用いて匂い検出性能を調べた。Ir84aを発現させた細胞系統は試験した他の匂い物質には応答せず、リガンドであるフェニルアセトアルデヒドに選択的に蛍光応答を示した。また、濃度依存的に蛍光強度を増加し、1~10microMに検出閾値を持つことが分かった。これにより、IRをSf21細胞で機能発現させることに成功し、作出した細胞系統が匂い物質を蛍光強度変化量として選択的に検出できる匂い検出素子として利用できることを示した。 ③前年度までに作製した2本の微小流路を持つ流路チップ内に2種類の異なる嗅覚受容体を発現する細胞系統を並列配置した匂いセンサチップを構築し、匂い物質に対する濃度依存応答や選択的な蛍光応答を取得できることを示した。現在、作出したIR発現細胞の導入の検討を進めている。
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