研究課題/領域番号 |
24780332
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
丸田 隆典 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (50607439)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 酸化ストレス |
研究概要 |
本研究では葉緑体由来の活性酸素種(ROS)シグナリングの解明を目的として、そのコンポーネントとしての役割が示唆されている2つの新奇シロイヌナズナ転写因子(HAT1およびbZIP65)およびタンパク質キナーゼ(MAPKKK16)の生理機能の解析を試みている。H24年度の計画は、各タンパク質の細胞内局在性、過剰発現株の作出、下流遺伝子の同定を試みるものであった。 GFP融合タンパク質を用いた解析から、HAT1およびbZIP65は核に局在することが示唆された。興味深いことに、HAT1の核局在性は酸化ストレスによって阻害された。この事実は、HAT1のROSセンサーとしての役割を示唆した。また、HAT1およびbZIP65の過剰発現株の作出も終えることができ、それらが酸化ストレスに高い耐性能を有することも明らかにした。さらに、HAT1欠損株を用いたマイクロアレイ解析により、下流遺伝子候補を約50個同定することができた。興味深いことに、それらには成長や発達に関連する因子が多く、HAT1は防御遺伝子の発現ではなく、酸化ストレス下での植物体の成長制御に関与することが示唆された。 一方、これまでにMAPKKK16の欠損株が酸化ストレスに高感受性を示すことを明らかにしていたが、詳細な解析の結果、その表現型は別遺伝子へのT-DN挿入によって引き起こされている可能性が示唆された。この予想外の事態に対応するため、MAPKKK16の機能解析を本研究計画から除外し、代替措置としてH25年度に予定していた「新たな変異株の選抜」を繰り上げて行った。その結果、いくつかの転写因子の破壊株が酸化ストレス高感受性を示すことが分かった。さらに、フェニルプロパノイド系酵素の破壊株でアントシアニンの蓄積が抑制されており、酸化的シグナリングとアントシアニン代謝との関連が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、HAT1およびbZIP65の機能解析は概ね研究計画通りに進んでいる。加えて、HAT1の細胞内局在性のレドックス制御が示唆されたことにより、当該転写因子のROSセンサーとしての可能性が考えられ、本研究の学術的価値がおおいに高まった。そのため、HAT1のレドックス制御に関する実験を当初の計画に上乗せする必要があり、bZIP65のマイクロアレイ解析は今年度への持ち越しとした。しかしながら、本研究の学術的価値を考慮すると、bZIP65研究の遅延はHAT1研究の進展で相殺される。また、MAPKKK16の研究を断念せざるを得ない不足の事態に陥ったが、代替措置としての新奇変異株の選抜が功を奏し、MAPKKK16以上に興味深い遺伝子を複数得ることができた。具体的には、bHLH101、ANAC036、ANAC074などの転写因子である。HAT1、bZIP65に加え、これらの機能を明らかにすることにより、本研究は、当初の計画よりも高いレベルでROSシグナリングの全容解明に貢献できると確信している。よって、現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、本年度に持ち越したbZIP65の標的遺伝子の同定を早急に実施し、下流遺伝子を同定する。その後、当初の計画どおり、トランジェント法による転写活性調節能の解析を行う。また、H24年度に明らかになったHAT1のレドックス制御について詳細に解析するため、HAT1のシステイン置換変異体を用いたゲルシフト法や細胞内局在性解析を追加して行い、論文を執筆する。既に、各実験に用いるコンストラクトは作製済みであり、秋までには解析が終了する。 MAPKKK16のターゲットタンパク質の探索を行う予定であったが、上述のとおりMAPKKK16を研究対象から除外したため、新たに選抜した新奇の転写因子の機能解析を計画に追加する。具体的な内容は、HAT1やbZIP65の解析で行ったとおり、細胞内局在性、過剰発現株の作出、下流遺伝子の同定、トランジェント法である。既に、実験に必要なコンストラクトの作製を進めており、今年度中にいくつかの転写因子の標的遺伝子を同定できると考えている。それらは解析終了後、順次論文を執筆し、投稿する。 マイクロアレイにより、各転写因子の標的遺伝子が明らかになり次第、それらのアレイデータの比較解析を行い、それぞれの酸化的シグナリングにおける位置づけを明確にし、酸的シグナリングを介したストレス応答機構のアウトラインを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のとおり、H24年度はMAPKKK16の機能解析を断念した経緯から、新奇変異株の選抜を繰り上げて実施した。標的遺伝子の同定や遺伝子発現解析などは研究にかかる試薬が高額であるのに対し、変異株選抜では高額な試薬類を必要としなかった。さらに、新たに同定した転写因子の機能解析(標的遺伝子の同定や遺伝子発現解析)を今年度の計画に追加したため、それにかかる費用をH24年度の研究費から繰り越した。 HAT1およびbZIP65の機能解析およびかかる費用に関しては、当初の計画どおりである。H25年度に実施予定であった新奇変異株選抜にかかる費用、ならびにH24年度からの繰り越し研究費を、新たな転写因子の機能解析にかかる生化学および分子生物学用試薬、プラスチックおよびガラス器具に充当する。
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