本研究では葉緑体由来の活性酸素種(ROS)シグナリングを明らかにすることを目的として、その分子機構に関与する2つの候補転写因子(HAT1およびbZip65)の生理機能解明と、新規シグナル伝達因子の同定を試みた。 過剰発現株や遺伝子破壊株を用いた分子遺伝学的解析に加え、生理生化学および分子生物学的解析を駆使し、HAT1およびbZip65は葉緑体由来のROSの下流において、酸化的ストレス応答に関与することを明らかにした。両転写因子の発現はレドックス制御を受けるが、興味深いことに、HAT1の核局在性もまたレドックスにより制御され、ROSセンサーとしての機能が示された。HAT1の下流遺伝子には成長に関与する遺伝子が含まれた。また、bZip65は病原菌応答においてもコアな役割を持つことが分かり、生物的および非生物的ストレス応答のバランス制御に関与することが示された。 また、葉緑体由来のROS応答性遺伝子群の包括的な逆遺伝学的解析により、新たにNACやbHLH転写因子が酸化的ストレス応答に関与することを明らかにした。特に、bHLH転写因子の標的遺伝子の多くは、葉緑体ROSに応答性を持つことから、本転写因子はシグナル伝達系においてコアな働きを持つことが示された。これらは上述のHAT1やbZip65とは独立して機能しており、葉緑体ROSシグナリングの複雑さが示唆された。さらに、新規シグナル伝達因子の探索の過程で、フェニルプロパノイド合成遺伝子の発現が葉緑体由来のROSによって活性化されること、そしてそれは光酸化的ストレス下でのアントシアニンの蓄積に必要であることが分かった。 以上の研究成果から、原著論文を一報発表し、現在HAT1およびbZip65に関する原著論文(二報)を執筆中である。
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