研究課題/領域番号 |
24790005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
倉永 健史 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (70625201)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / ペプチド / 全合成 / ヤクアミド |
研究概要 |
屋久新曽根産海綿より単離された新規細胞毒性化合物ヤクアミドAおよびBは、4つのα,ß不飽和アミノ酸、3つのβ-ヒドロキシアミノ酸を含む多数の非タンパク質構成アミノ酸および特異な両末端構造からなるペプチド系天然物で、さらにそのN末端に構造未決定部位を有していた。また、ヤクアミドAはヒト癌細胞株39系に対して他の抗がん剤と比較し特異な増殖阻害活性を有することが報告されている。ヤクアミドの構造-活性相関研究は新規抗がん剤の設計・合成につながると考えられ、申請者はその全合成、完全構造決定、構造活性相関研究を行うことを計画していた。 ヤクアミドの全合成にはその不飽和アミノ酸部位の効率的なE/Z選択的合成法の確立が必須であった。申請者は新たな不飽和アミノ酸部位合成法の開発に取り組み、E/Z選択的に合成したアルケニルヨージドと各アミノ酸アミドの銅触媒を用いたクロスカップリング反応により、その全ての不飽和アミノ酸部位をE/Z選択的に合成することに成功した。また合成した不飽和アミノ酸連結のための縮合反応の際にエナミドの二重結合が異性化する合成上の問題も判明したが、申請者は適切に保護基を導入することでそのE/Z異性化を制御可能であることも見出した。 続けて、各非タンパク質構成アミノ酸、C末端フラグメントを化学合成により調達し、さらに立体配置未決定部位を有するN末端フラグメントについては天然物の2つの可能構造フラグメントに相当する2つのエナンチオマーを合成した。得られた全てのフラグメントをC末端部位より順次連結することで、それぞれ異なるN末端構造を有するヤクアミドAの可能構造ジアステレオマーを2つ合成することに成功した。さらに、得られた化合物のNMR実験より天然物中の構造未決定部位の完全構造決定にも成功した。 以上のように、申請者はヤクアミドAの世界初の全合成、完全構造決定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は抗腫瘍性ペプチド系天然物ヤクアミドAおよびBの化学合成による完全構造決定、詳細な生物活性試験のための実践的試料供給、人工類縁体の合成、構造活性相関研究による構造簡略化体の設計・合成を目的とし、平成24年度においてその全合成を行い、平成25年度にその人工類縁体合成および構造活性相関研究を行うことを計画していた。申請者は平成24年度においてヤクアミドAの世界初の全合成および完全構造決定に成功し(J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 5467-5474.)、化学合成による試料供給が可能となった。いっぽうで、平成25年度中に行うことを計画していた人工類縁体の合成についてはまだ研究初期段階で、予定の大幅繰り上げとはならなかった。そのため「(2)おおむね順調に進展している。」の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度においてヤクアミドAの全合成を達成することができた。また申請者らの確立した全合成ルートはアミノ酸の置換等による種々の構造類縁体の合成にも適用可能と考えられるものである。平成25年度において、まずヤクアミドBの全合成および完全構造決定を行い、さらに化学合成による生物活性試験のための試料供給を行う。次に、各種構造簡略化体の合成、構造活性相関研究を行い、ヤクアミド類の生物活性発現に必須な構造の探索を行う。さらに合成ルートの更なる改良を行い、抗腫瘍活性ペプチド合成の機械化・自動化を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画通りに研究が進展しており、今後はヤクアミドの構造活性相関研究を行う予定である。申請者の所属する研究室(東京大学大学院薬学系研究科有機反応化学教室、井上将行教授主宰)では複雑な構造を有する天然物の全合成を専門とし、平成24年度に行ったヤクアミドAの液相全合成においては、必要な試薬、設備はある程度は揃っていた。しかし、平成25年度においては構造活性相関研究のための各種生物活性試験や、さらにはヤクアミドのペプチド固相合成機を用いた合成の機械化、自動化を目指している。そのため、新たな生物活性試験や同位体標識化合物合成用等の試薬、備品等を購入する必要があり、本研究費を使用して研究を行う予定である。またすでに決定している国際学会1件、国内学会1件を含み、本成果の学会発表や論文発表も予定しており、旅費や英文校正費等も計上する予定である。
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