鉄触媒は安価で安全な試薬であるため、その潜在的機能性探索は、有機合成化学において極めて重要である。今回、汎用試薬であるシリル系試薬と組み合わせることで、①ヘテロ環の開環を伴った官能基化、②ベンジル位の直接的官能基化ならびに③シリルオキシ基ならびにメトキシ基を脱離基として利用した新規反応を開発した。 まず始めに①ヘテロ環の開環を伴った官能基化において、安定な環であるテトラヒドロフラン環の炭素ー酸素結合部の触媒的開裂に伴う官能基化を達成した。これは初めての触媒的手法であり、多様な鎖状化合物を合成できる。また基質をオキサノルボルナジエンへと変換することで、高官能基化されたナフタレン誘導体の合成法として応用した。 次に②ベンジル位の直接的官能基化では、以前に金触媒を用いてのみ達成した手法を安価な鉄触媒を用いても進行することを明らかとした。 一方、シリルオキシ基ならびにメトキシ基は脱離基としては機能しないため、一般に水酸基の保護基として用いられる。しかし、鉄触媒を用いることで③シリルオキシ基ならびにメトキシ基を脱離基として利用した新規反応を開発することができた。 以上、生物活性物質やπ電子系化合物(ナフタレン等)として期待される複雑な骨格を簡便に合成できる手法を開発するとともに、合成ルートの多様化ならびに短縮を実現する有用新規反応を確立することができた。これら全て、安価で汎用性のある鉄触媒とシリル系試薬を用いて容易に達成できるため利用価値が高い。
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